超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2019-01-01から1年間の記事一覧

用途

火葬場にバターナイフが落ちていた。

てことは

飼育小屋にニワトリの様子を見に行くと、すべてのニワトリが頭を垂れて目をつぶり、じっと黙祷していた。てことは今日の給食、鶏肉か卵が出るんだな。楽しみ。

ビタミン

赤い鼻がかわいい恋人に、「イチゴみたいな鼻だね」と冗談で言ったら、恋人は「どうしてわかったの」と悲しそうに言い、その途端恋人の顔や体がひび割れてオレンジやバナナになって崩れていき、最後はたくさんのフルーツの山だけが残された。てっぺんには真…

シャンプーしてる時に、何だか髪の毛の中に指の数が多いなぁ、って時、あるでしょ?ああいう時は死んだおばあちゃんが来てる時だから、むやみに怖がっちゃだめよ?うん、怖いのもわかるんだけどね。え?何でシャンプーに混ざってくるのかって?知らないわよ…

お兄ちゃんの日

隣家の表札には、家族全員分の名前が書かれていて、その下にはあみだくじの線が引かれており、辿っていくと、一つだけ猫の顔のマークに行き着くものがある。線の形は毎日更新されていて、隣家には毎日違った模様の猫が出入りしている。奥さんが猫の日などに…

飼い主

「よーし、じゃあ、ジャンケンで勝った方が、負けた方の飼い主な」そうして始まった私の今の生活ですが、週に一回は刺身を食べさせてもらえるし、時々麻雀にも混ぜてもらえるので、案外不満はありません。あ、トイレがちょっと面倒かな。

文字化け

昔の恋人からある日突然メールが届いた。本文を見ると、わけのわからない文字の羅列でぎっしり。たぶん文字化けしているだけなんだとは思うけど、ただ、それにしては「呪」って字が多いんだよな。

夕方、近所を散歩していると、郵便ポストの傍らに、おでこに切手を貼ったおじさんが一人、突っ立っていた。背広の背中に、「海」と書いてある。宛先だろう。コンビニで何となくビールを買って、もう一度ポストの前を通りかかると、おじさんはもういなくなっ…

仕事

教頭先生の姿が見えない時は、理科の授業で骨格標本が使われている。教頭先生がいる時には、理科準備室から骨格標本が消えている。間違いないと思うが証拠がない。噂によると、「皮」を探し出すのが、生徒会の裏の仕事らしい。

ほくろ

女房の背中にある二つのほくろは、毎日その位置が微妙に変わっている。「星の動きと連動してるのよ」と女房はふふんと得意げに笑うが、ぼくは夕飯のメニューが関係しているような気がしてならない。

DJ

……というお便りでした。懐かしいですねぇ、修学旅行。そういえば、昔、ぼくもね、学生の頃、修学旅行に行った時、友人に指摘されて初めて知ったんですが、ぼくのいびきって、へそから聞こえてくるらしいんですよね。ぼく、人間じゃないのかなあ、なんて思い…

標識

ある日、近所の墓地の前を通りかかると、墓地の入り口に標識が立っていた。「幽霊禁止」の文字の上に、幽霊のシルエットに斜線が引かれたイラストが添えられている。ここの墓地、前々から「出る」って噂だったもんな。でも、標識一つで出てこなくなるような…

ふと気がつくと、いつの間にか、たましいが腐りはじめてしまっていて、胸の辺りから漂ってくる腐臭や、常に周りを飛び回っている蝿の群に悩まされている。むかしはあんなにぴかぴかだったたましい。いつから腐りはじめてしまったのだろう。あの時か、あの時…

ある日気がつくと、足の裏に小さな翼が生えていた。靴下を脱いで逆立ちをして、足の裏に、んっ、と力を込めると、羽ばたいてそのまま少し浮くことができるようになった。頭に血がのぼるから基本的にあんまりやらないけど、たまに、世の中の見方がよくわから…

さよなら

誰もいなくなった駅の床を掃除していると、かわいた、あるいは湿った、大きな、あるいは小さな、色も、形も様々な「さよなら」が散らばっていることに気づく。たいていの「さよなら」は他のゴミと混ぜられ、そのまま捨てられる運命だが、ときどきやけに目に…

うかつ

せっかく化けて出たのに、あいつに会う前に、通りかかった野良猫になつかれてしまい、思わず顔がほころんでしまった。ああ、もういい、もういい。廃業だ、幽霊は。

ディナー

ナイフとフォークを並べ、皿にマスタードを添え、ワインの栓を開けた。あとは月が出るのを待つだけだ。三日月だから、口の中を切らないように注意しなければ。

おとーさん

娘が「おとーさんのえかいた」と言うので慌てて見せてもらうと、ゴミ袋が四つ並んでいる絵だった。何で知ってるんだろう。

恋人に指摘されて知ったのだが、俺の背中には「名前を書く欄」があるらしい。「私の名前、書いていい?」恋人はおかしそうな顔でそう言ったが、俺は「待ってくれ」と答えた。名前を書く欄か。普通なら持ち主の名前を書くのだろうな。持ち主、俺の持ち主。恋…

誰が

ふと見上げた火葬場の煙突から、金色の煙がたちのぼっている。

最近、夜空に浮かぶどの星を結んでも、「タスケテ」という文字が浮かび上がってくるのだが、これは私がやばいのだろうか、宇宙がやばいのだろうか。

お茶

「お茶にしてあげるから、おいで」(と言われ、のこのこついていった結果、ティーバッグの中から出られない。)

補助輪

ある日空からカラカラ、という音が聞こえてきたので頭上を見上げると、補助輪を付けた小さな雲が、大きな雲たちを必死に追いかけているところだった。必死なところがかわいらしかった。末は入道雲か雨雲か。風よ、あんまり吹きすぎてやるなよ。

河原を散歩していた。ふと足下を見ると、耳が一枚落ちていた。めくると、耳の下から小さな蟹が出てきた。驚いた様子で右往左往していた。悪いことをした。この耳はこの蟹の休憩所だったようだ。めくった耳を元に戻して散歩を続けた。なぜ耳が落ちていたのか…

ミカン

今日は夕日がやすみだから、こたつのミカンを夕日のかわりにすることにした。家を出て、丘にのぼり、暗い地平線にミカンを近づけていくと、ミカンはある地点でぼくの手からするりとぬけだし、夕日のかわりに地平線にゆっくりと沈んでいった。翌朝、太陽より…

手動

いつも前を通りかかるだけのたばこ屋の、店番のおばあちゃん。動いているところを見たことがなかったのだが、先日、よく目をこらすと、店先に「手動です」の貼り紙と回すタイプのレバーがあることに気づいた。あれを回したらおばあちゃん、動くのだろうか。…

開園前

明け方。開園前の動物園を覗く。手に手に電池を持った飼育員の人たちが、忙しそうに歩き回っている。単一は象とかかな。

ゴボゴボ

おにごっこする?「ゴボゴボゴボ」できないよね。かくれんぼは?「ゴボゴボゴボ」無理だよね。お菓子食べる?「ゴボゴボゴボ」食えないか。勉強教えて?「ゴボゴボゴボ」そうだよね。(あーあ。早く、水死体以外の友だち見つけないとなぁ。)……夕日が綺麗だ…

言いつけ

じゃあ私もう出かけるけど、ご飯はちゃんと食べること。戸締まりもちゃんとすること。それから、仏壇から笑い声が聞こえてきたら、聞こえなくなるまで「ごめんなさい」って言い続けること。お願い、ね?

生命

廃品回収のトラックの荷台に載せられた瞬間、壊れているはずのテレビの画面に、断続的に砂嵐がざざっ、ざざざっ、と表示されて、これはいわゆる怪奇現象なのかな、と思って回収業者のおじさんに訊いてみたら、「命乞いですね」と言われた。なるほどね。