超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

えにっき

すなばをほっていたら、つむじがでてきました。

無題

夕暮れの墓場から、青白い顔の男が歩いてくる。頭上に ( を浮かべ、足下に ) をまとわりつかせた、つまり「( )」に閉じこめられた青白い顔の男が、歩いてくる。生きているわけでも、死んでいるわけでもなく、困り果てたこの世が仕方なく( )に閉じこめ…

ギター

我が家のブロック塀に、カタツムリの殻だけが残されていた。中を覗くと、空っぽの空間にぽつんとギターが置かれていた。ああ、あのカタツムリ、引っ越す時にギターやめちゃったのか。雨の日にかすかに聞こえてきたあの歌、好きだったんだけどな。

もちもち

今日の夕日、何だか、美味しそうだ。もちもちしている。かじったらどんな味がするのだろう。そんなことを考えながら夕日を眺めていたら、いつの間にか周りには人や動物がいっぱい集まっていた。夕日を見つめながら舌なめずりをする犬、フォークとスプーンを…

枯葉

大通りの白い道に、「枯葉色」のチョークが等間隔に並べられていた。ああ、いつの間にかもうそんな季節か。道行く人々がチョークを手に取り、楽しそうに地面に色を塗っている。せっかくだから、私も一本。その場にしゃがみ込み、地面を「枯葉色」に染めてい…

スイカ

帰宅して、玄関のドアを開けると、頬を赤く染めたオスのカブトムシが一匹飛び出してきて、そのままぶぶぶと夜の闇の中に消えていった。「おかえりなさい」と出迎えてくれた妻は口元を手で拭いながら出てきて、台所の三角コーナーの中には赤いところをすっか…

開閉

終電をおりたものの、血まみれの自動改札が狂ったように開閉を繰り返していて、いつまでも駅を出ることができない。

じゃんけん

水族館の清掃員の仕事に就いてから、ヒトデとじゃんけんをするのが、毎日の日課です。館の隅の水槽にひっそりと生きているやつです。ほとんどがあいこですが、たまに勝つ日もあります。そういう日は、帰りにビールと刺身を買って晩酌することにしています。…

噂(1, 2)

(パターン1) 近所の空き地で野良猫の集会が始まってから、ずっとくしゃみが止まらない。どうやら私のことを噂しているようだ。やっぱり、ばれてしまったか。でも、だって、久々の変身だったんだもん。 (パターン2) 近所の空き地で野良猫の集会が始まって…

贋作

戸籍謄本が必要になり、役所に取りに行くと、私の名前の後に「(贋作)」と記されていた。私、贋作だったのか。どうりでぱっとしない人生だ。いつか本物と会ったら何話そうかな。

いわし

ある午後のことだった。私の娘が庭でしゃぼん玉を吹いて遊んでいた。庭を囲むブロック塀の上では野良猫が一匹、丸くなって眠っていた。そこへふいに強い風が吹いた。ひときわ大きなしゃぼん玉がストローを離れると、風にあおられて野良猫の方へ飛んでいった…

犬の散歩をしながら夜道を歩いていたら、星が一つ落ちてきて、俺の脳天に穴を開けた。星は脳天から喉を経て腹の中へ落ちて、パチパチ弾けながら消えてしまった。脳天に開いた穴をどうしようか、医者に行って塞いでもらった方がいいのだろうか、と考えたが、…

紙吹雪

朝目覚めたら、全身紙吹雪まみれだった。夢の中で誰かを刺し殺したことだけは覚えている。果たしていいことだったのか悪いことだったのか。紙吹雪をはたき落とし、見えない返り血を洗面台で洗い落とす私を、窓の外から鳥が見ていた。

歯車一つ

耳掃除をしていたら、耳の中から小さな歯車が出てきた。慌てて耳の中に戻そうとしたが、どうもうまくはまらない。仕方がないので捨てた。まぁ、歯車一つなくなったところで支障はないだろう。ところで俺今何をしてたんだっけ。あ、耳かきがある。そうだ、耳…

握手

通学路のとちゅうに、段ボール箱が置かれていた。「拾ってください」と書かれてあった。中を覗くと、手首があった。女の人の手首だった。一緒に入れられていたビー玉で遊んでいた。ぼくに気づくと手首は、ひらひらと手をふってきた。「うち、アパートだから…

亡霊

夜道を歩いていると、粗大ゴミ置き場の周りに、何か人魂のようなものがいくつも漂っているのが見えた。近づいてよく見ると、それは焼き豆腐の亡霊だった。亡霊のすぐ傍には、使い古されたすき焼き鍋が無造作に捨てられていた。これの元の持ち主は、よっぽど…

靴のおじさん

裏路地に、どさっ、と音がして、振り返ると、靴のおじさんが道に転がっていた。仰向けに転がって、しかも笑っているってことは、明日はよーく晴れるのだろう。「ぼくは何もできないから、せめて天気占いの靴のかわりに、こうして毎日家の屋根から自分を放り…

ポイント

道を歩いていたら、ブロック塀の上に野良猫がいた。額を見ると、認定印が入っている。ポイントカード対応の野良猫だ。慌てて財布の中から野良猫ポイントカードを取り出し、早速撫でる。猫がゴロゴロと喉を鳴らす。ポイントカードを差し出すと、猫は喉を鳴ら…

モーツァルト

「終わりなんですね」「もう終わりなんですね」トラックはそうつぶやいた。ある日のスクラップ工場、プレスされつつあるオンボロトラック、いつもなら「右に曲がります」だの「バックします」だの言っているあの声で、「もう終わりなんですね」トラックは確…

案山子

一番お気に入りの案山子、一所懸命作った案山子、だけど壊して捨てなきゃなんない。見てしまったんだ、案山子が、肩にとまった雀にウィンクしてるところ。どうりで雀の数がちっとも減らねえわけだ、お父さんはカンカンだ、やさしいんだろうけどねえ、お母さ…

ほかほか

道を歩いていたら、ほかほかの骸骨とすれ違った。全身から湯気を立てながら、ずいぶん急いでいた。ほかほかの骸骨のやってきた方を見ると、火葬場があって、その煙突に、縄ばしごがかけられていた。あいつはあれを伝ってやってきたらしい。骸骨はどこへ行く…

窓辺

小銭でも落ちてねえかなあと思って、視界に入るすべての自販機の釣り銭口に指を突っ込んでいたら、ある寂れた自販機の釣り銭口から、指を突っ込んだ拍子に小さな蝶々が出てきて、そのままふらふらと飛び去っていった。これはいいことをしたのだろうか。した…

家の裏にある川を眺めていたら、目玉を一つ載せた笹舟が流れていった。次の日、同じように川を眺めていたら、細い指を一本載せた笹舟が流れていった。その次の日、笹舟には昨日より少し太い指が載っていた。爪が綺麗だった。どんな人なのか少しわかったよう…