超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

夕方、民家の玄関の前で、「おうち入れないぃ、影焼いてぇ、おうち入れないぃ、影焼いてぇ」と泣き叫ぶ子どもに、百円ライターを持った母親らしき女性が慌てて駆け寄る。

長生き

「あっ、ここにほら、××社のロゴが入っていますので、長生きしますよぉ」と手相見の占い師に言われる。

ぬいぐるみ

向かいの家のベランダにずらっと干されているクマやウサギのぬいぐるみがすべて、股間の部分がうっすら赤く汚れている。

ボタン

町のはずれのビルの壁にある「押しボタン式××」と書かれた謎のボタン。××の部分がかすれて読めない。ボタンを押しても信号が変わるわけではない。ただ以前一度だけ、霊柩車の運転手が車から降りて押しているのを見たことがある。

余白

本を食べてる時、やっぱり余白が一番美味いな、とつぶやいたら、妻に「じゃあふつうの白紙でいいじゃない」と言われたが、そうじゃないんだよなぁ。そうじゃないんだ。わかります?

球体

我が家の神棚には、バレーボールくらいの大きさの肌色の球体がまつられており、夏になるとその球体が日焼けし、冬になるとその球体にあかぎれのようなひびが現れるのだが、そのかわり、家族の誰も日焼けしたことがないし、あかぎれも出たことがない。

未練

今月の遺書雑誌の投稿欄に俺の遺書が載ったので、これで未練なく死ねる。

備考欄

備考欄にはこれまで担当した星の人類の成熟度を記入してください。

プチトマト

おはよー。あ、今日の義眼、プチトマトなんだ。へー。……食べちゃお。

少女

SNSで知り合ったロボットの少女に、無理矢理望まないアップデートをさせたとして、無職の男が逮捕されました。男は「お嫁さんにしたかった」などと供述しているとのことです。

せーの

幼い頃、マンションの屋上から、誰かと「せーの!」で互いの弟を投げた記憶があるのだが、「せーの!」した相手が誰だったかちっとも思い出せない。

ファン

「みんなファンだったそうですよ」とマネージャーが持ってきた百個の骨壺に、一つ一つサインをしていく。

Uターン

天国の扉の前に「Uターン禁止」の標識が立っていて、「たまにね、いるんですよ」訊いてもないのに付き添いの天使がぼやいた。

こたつ

こたつに突っ込んだ足から伝わる感触でピンと来た。「生首?」「うん。怒ってるからあったかいでしょ」

要返却

道行く子どもたちをつかまえ、おでこにマジックで「要返却」と書いていた男が今日、逮捕されました。男は「神様に言われてやった」などと供述しています。

アタリ

左ひざのかさぶたを剥がすと裏に「アタリ」の文字があり、その夜何もないところで転んで右ひざから血が出た。

子どもが「虹が見たい」というので冷凍庫から取り出して解凍しようとしたら、「霜がついてる方が綺麗だからそのままでいい」と言うので、解凍せずにお空に飾った。子どもの感性は独特だ。

老後の楽しみ

「そうですね、この時期になると、自殺のご予約でいっぱいです」名所の管理人、××さんは語る。「お金は取りません。その代わり顔写真を一枚いただいています」××さんのコレクションは今年四百枚を超えた。「これを眺めてね、老後の楽しみにするんです」××さ…

書道家

今日午後、著名な書道家として知られる××容疑者が、殺字罪の疑いで逮捕されました。

最近、いやらしいことを考えていると、必ず飼い猫が引っかいてくるようになった。

折り紙

図書館で折り紙の本をめくっていたら、破られているページを見つけた。目次から探して、何の折り方が載っていたのか確かめると、そこには「死んだ子」と書かれていた。

動物園で猿を見ていたら、猿山の中に、飼育員ではない格好の、そう、まるであれは看守みたいな……な男の人が現れて、「面会だ」と一言つぶやき、一匹の巨大な猿を連れて出ていった。

「女」という言葉に付箋が貼られた国語辞典を小脇に抱え、白衣に眼鏡の男が一人、ラブホテルに入っていく。

星座

「××家座」と名付けられているその星座は、結ぶと四本の首吊り縄の形になる。

パンフレット

母の葬儀についての説明を葬儀屋から聞いている時、葬儀屋が持ってきた資料の中に、「広げよう おばけの輪」と題されたパンフレットがあり、これは何かと尋ねたら、葬儀屋は苦笑いして、「何度捨てても混じってるんです」と言いながらパンフレットをくしゃく…

凶器

ふとテレビをつけたら、ニュース番組が流れていて、「凶器に使われたものと同じもの」というテロップの上に、地蔵が映っていたのだが、すぐ次のニュースにいってしまったので、どんな事件かわからなかった。

悪口

「「ハゲ」なら十年物がありますよ」悪口屋の若い店主は、そう言って私を悪口蔵に案内してくれた。

コメント欄

コメント欄が荒れてるから、あの拷問は次回からなし。

イヤイヤ

夕方、公園のぶらんこにしがみついてイヤイヤと頭を振る子どもに、母親が優しく「おじいちゃんは売ったから帰ろう」と話しかけている。

ザンパンのお姉さん

台所に知らない女の人が立っていた。顔がなくて、顔の部分には大きな空洞が開いており、中はどこまでも闇だった。「ザンパンのお姉さんよ」母が言った。調理や食事で出た残飯を、お姉さんの顔に投げ込むのだという。十五歳の夏、ぼくの初体験の相手は、この…