2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧
電車の前の席に座っている女のミニスカートの脚の間からしわしわの長い指が一本突き出ていて、俺をずっと指している。
頭部の色や形が地球そっくりになっていく病にかかった恋人が、キスをしてくれと私に頼んでくるが、その唇はすでに私たちの敵国の形になっている。
夏祭りの出店の、豚すくいの屋台でとった豚を家に連れて帰ったら、お母さんに「その豚はお前と同じ目をしているね」と言われた。
その豚は毎日、寝る前に、養豚場内の図書館の机で詩を書いている。
父親が入っている刑務所の電話番号を語呂合わせで覚えるオリジナルの歌を歌いながら、小学生が一人、下校している。
眠れない夜、近所のコンビニに行き、そこで売られている狼の剥製の目をずっと見ている。
夏風邪をひいたらしく、咳をするたび、喉の奥から向日葵の花びらが出てきて、畳に散らばる。
彼はまだ月の裏側で、かくれんぼの鬼を待ち続けている。
世界で最後の一本になった鼻毛の持ち主の少女が、花の匂いを嗅ごうと、鼻カバーを外そうとして、指の爪を剥がしてしまった。
夜逃げした家族が住んでいた家を調べたら、鳥かごの中に唐揚げが置かれていた。
母が作ってくれる夕日100%ジュースは、いつも少し夜の闇の味がした。
夜の古書店で開かれた舞踏会で出会ったその恋愛小説は、「栞が挟まれているので激しくは踊れないんです」とぼくにはにかんだ。
「人魂を見せてあげる」と言って彼女は、下着を脱ぎ、墓場が見える方の窓にそれを吊るした。
「海へ行きたい」と時々つぶやくそのホームレスの老人の目が、だんだん鯨に似ていく。
廃線になった線路の上で、夜中、鉄火巻たちが電車ごっこをしている。
借り物競争で「腐乱死体」の紙を引き、ここからだと理科室と音楽室どっちが近いんだっけ。
朝起きると枕が猫の顔の形に凹んでいる。
せっかく書いた詩が、出版社に持っていく途中でいつも、数粒の金平糖になってしまう。
朝の散歩中、夫が、「何か、今朝の霧、美味いな」と言いながら、霧の中へ消えていき、二度と戻らない。
カレンダーの明日の予定の欄に、書いた覚えのない「猫食う」のメモ。
コンクリートの壁という壁に「尼」「尼」「尼」……と落書きされている高架下のトンネルを、一人の尼が、歩いていく。
母の骨壺の中で二匹の蛍が同棲している。
砂浜に書いた「死にたい」の文字が波にさらわれ、波が引いたあとに、「オレモ」の文字が。
そういえばこの馬は、食事とトレーニング以外の時間は、ずっと哲学書を読んでいたな、と、怒号渦巻く競馬場の中で、思い出す。
生まれたばかりの娘をスマホで撮っていたら、スマホの穴という穴から、ハチミツが染み出てきて、スマホがぶっ壊れた。
もう空がこんなに暗くなって、夜か、と思いよく見るとそれは夜の闇ではなく海苔で、とうとう寿司職人たちの反乱が始まったことを知る。
コンビニの雑誌の立ち読みで、地球に残った人類が全滅したことを知る。
その寺の僧侶たちはみな、坊主頭に爪楊枝が刺さっているので、元々はたこ焼きだったのかもしれない。
墓参りに行く時は、必ずおばあちゃんに、影に唐辛子やわさびを塗られたものだった。
今夜だけ月の代わりを務めることになったコロッケを、ドキドキしながら揚げている夕方。