超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

誇り

父は枯れる時まで、ぼくの祖父、つまり父の父が、人間に伐り倒された後、絞首台に加工されたことを誇りにしていた。

美味しい肉

美味しい肉を食っている夢から覚めると、妻の義足を舐めていた。

刑務作業

刑務作業で虹を作った。塀の外は近く雨らしい。

賽銭箱

人気のない神社に何となく立ち寄り、賽銭箱に小銭をいれようとした時、賽銭箱の中にぎちぎちに詰まっていたおじさんと目が合う。「俺、四十円」

わがまま

火葬場の煙のわがままを聞き入れた神様が特別にそいつを雲にしてやったそうだ。だからあんな雨が降ったのさ。

主人公

私が二十年書き続けているファンタジー小説の主人公が、ある日突然、「エロ本の中で死にたい」と書き置きを残し、失踪した。

万華鏡

万華鏡の中で死んだ姉が、万華鏡をぐるぐる回すたびにけたたましく笑う。

さよなら

「さよなら」という名前を付けた我が子が最近よく笑う。

南瓜

妹の生まれ変わりの南瓜を妹の好きだった甘い汁で煮る。

家族写真

母が幼い頃に撮ったという家族写真を見ていたら、母の叔母さんだという女性の顔の部分を母がずっと指でおさえているので、顔が見たいと無理矢理母の指を引き剥がすと、写真の中でその女性の首がころんと落ちた。

しいくごや

せんせー、またー、しいくごやのまえにー、うちゅうふくのひとー、いたよー。

本当ダゾ

「コレハ爆弾ダゾ、本当ダゾ」と、動物園の猿山のてっぺんで、猿が叫びながらバナナを振り回している。

薬屋

「これ、お前に似てるねぇ」薬屋を営む祖母が、妖精の死骸をベランダに干していた時、手に取った妖精を見て、そんなことを言うので、嬉しいような、嫌な気持ちのような。

デート

火葬場デートの成否は焼かれてる人の質によるのよ。

学校帰りに寄った公園の木でおばさんが首を吊っていて、びっくりして大人を呼びに行こうと駆け出したら、誰かとぶつかる。それは今そこで首を吊っていたおばさんで、おばさんは「君は何も見なかった」と言って、ぼくに飴をくれた。

内ポケット

喪服の内ポケットから、ストップウォッチが出てきた。ん?何の時、何を計っていたんだっけ?

アゲハチョウ

まだかすかに生きているアゲハチョウを、楽屋の鏡にテープで貼り付け、その女優は化粧ポーチを取り出した。

潰す

祖母は部屋に入ってくるアリやコバエを潰す時、必ず左手の薬指を使って潰す。

両替機

両替機の取り出し口から際限なくあふれてくる星々を必死に両手で受け取りながら、やっぱり月はすごいな、と思う。

風鈴

閉め切った部屋に吊るした風鈴の前に、おばあちゃんから貰った人形の口を近づける。風鈴は揺れない。今日はいないみたい。

地獄へと続く道の途中にも、軍手が落ちていた。

大きな猿

夜中、息苦しさで目が覚めると、大きな猿が、ぼくの首を絞めていた。払いのけても足で蹴っても猿は動じない。やがてぼくは意識を失った。翌朝、いつもの時間に目が覚めた。昨夜のは夢かと思い父に話すと、「ああ、お前ももうすぐ声変わりするんだね」と父は…

部屋で母の葬式で読む弔辞の原稿を書いていたら、天井から何かがぽとっと落ちてきたので、「虫!?」と思いながらおそるおそる確認すると、床の上のそれは箪笥の奥にあるはずの私のへその緒だった。

終電

おじさんの溶けた物が、終電の座席にこびりついている。

刑務所を囲む塀にびっしり「がんばって」という落書きが。

いつもいっつも

いつもお母さんの右脚に絡みついている知らない男の子に、いっつもにらめっこで勝てない。

異臭

異臭がするとの通報を受け、下水道の点検のためにマンホールの蓋を開けると、赤い風船がふわっと現れて、空をどこまでも昇っていった。

応募資格

応募資格:心臓が二つ以上あり、何があっても怒らない方。

だいじょーぶ

外から帰ってきた息子が、「ぼくねー、かそーば、だいじょーぶだったよ、かそーば」と繰り返すが、よく意味がわからない。ただ息子をよく見ると、体のそこら中が煤で汚れていた。

次ハ月ヲ飼ウゾ。