2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧
レジスターのひきだしが開く勢いが強すぎて、会計のたびに経理係の眼球が転がり出てしまう。
あなたのお墓を少しかじったら、香水と煙草の味がしました。 あなたもあちらで大人になったんですね。 あなたがおばけを怖がっていた姿がいつまでも可愛くて、あなたの去った家の廊下の蛍光灯は切れたままにしておいたのだけど、新しいものに取り替えようと…
今日も公園通りは蝶々の死骸で埋め尽くされ、朝の光にりんぷんがキラキラと輝いている。 花屋に勤めている私のお姉ちゃんは、もう三ヶ月も家に帰っていない。 昨日届いた手紙によると、仲直りはまだまだ先らしい。 今日も私はお姉ちゃんの無事を祈って、折り…
「時給も悪くないし、人とも会わなくて済むし、単純作業だし、俺にとっては最高のバイトだよ」 そう笑っていた友人は今でも、薄暗い倉庫の隅で、バケツ一杯に詰まった誰かの濡れた髪の毛を、ひたすら櫛でとかし続けている。
男、女、そして子どものものであろう三本の腕が、人のいなくなった夜の遊園地を這いずり回っている。
早朝、ゴミを捨てに行くと、雨でもないのに道路がびしょびしょに濡れていた。 ふと遠くに気配を感じてそちらに目をやると、粗大ゴミ置き場の前で、横向きに倒れたグランドピアノが、カラスと猥歌を歌いながら小便をじゃあじゃあまき散らしていた。
風鈴の音を聞きながら縁側で涼んでいると、田んぼの蛙たちがふいにケラケラ鳴き出した。どこかの家で人が死んだらしい。
長い長い時間をかけて、寺のお堂いっぱいに増築された蜂の巣からは、今も蜂の羽音の奥にかすかに、念仏を唱え続ける声が聞こえてきます。
無断欠勤が続いていた同僚のアパートに様子を見に行くと、何もない部屋の真ん中に、枕ほどの大きさの唇がぽつんと落ちていた。
あのバケツですか?いえ、雨漏りじゃありませんよ。 バケツの前に女性の絵が飾ってありますでしょう? 彼女が毎晩毎晩涙を流すので、それを受け止めるためにああして置いているんです。 はじめのうちはいちいちモップで床を掃除していたのですが、あまりにも…
帰り道、近所のゴミ捨て場をふと見ると、誰かが出したゴミ袋の中に、商品の欄に私の名前が印字されたレシートが透けて見えていて、誰もいないはずの我が家に明かりが灯っていた。
買い物を終えコンビニから出ると、傘立てにあったはずの俺の傘がなくなっており、代わりに濡れた包丁が一本置かれていた。
自由の女神の欠片、モナリザの欠片、西瓜畑の欠片、私の住処の傍を流れる濁った川に、今日も様々な欠片たちが浮き沈みしている。 何もない荒野の中心でひざを抱え、この川を眺めるのが、今の私の唯一の日課だ。 私の欠片は、まだ見つからない。
「誰かハナちゃんのお散歩行きなさい」 母はそう叫びながら、今日も犬だった骨片を振り回している。
近所の公園の隅にある池で水死体が発見された。 今年に入って五人目だ。 以前は何の変哲もないただの池だったが、ある日とつぜん水が白く濁りはじめ、その直後から水死体が頻繁に上がるようになった。 近所の人たちの話によると、死体はみな男性で、一人暮ら…
隣の家に住んでいるおばあさんが、今日もニコニコ笑いながら、庭に集まった野良猫たちにエサを与えている。 ずいぶん前に、こういうのはトラブルの元になりますから気をつけた方がいいですよ、とさりげなく注意したことがあったのだが、怒鳴られて追い返され…
ラブホテルの清掃員をしている。 昨日、ある部屋のバスルームに、コンドームと一緒に蛸の吸盤が落ちているのを見つけた。 今日、たまたま通りかかった近所の魚屋さんの前に、パトカーがたくさん停まっていた。
今朝、「ありがとう、ありがとう」という自分の寝言で目が覚めた。 何か夢を見ていたはずなのだが、内容がちっとも思い出せない。 しかし、今日に限って大嫌いな上司がいつまで経っても出勤してこないことと、何か関係がある気がする。
雨の日が好きです。 私を街に近づけないために撒かれたあの薬が、少しだけ薄まるからです。
ストレッチャーに乗せられて手術室に向かう途中、廊下の両端に、明らかに人間じゃない生き物たちが立っていて、私の手に次々とポケットティッシュを押しつけてきた。 今、ポケットティッシュが手元から全てなくなっているのは、たぶん手術が成功したからだと…
家庭の事情で引っ越してきたという転校生の弁当箱には、白米と梅干し、そして色とりどりの古びたお守りが整然と詰められていた。「お年寄りみたいだよね」 そう言ってハハハと笑った転校生の奥歯には、見たこともない文字が彫られていた。
プレゼントした指輪ごと全部捨てたのに、よりによってサメが指を食い残した。
焼き芋の屋台だと思って覗き込んだ荷台の木箱には、濁った水と睡蓮と、睡蓮の間に浮かぶ女の死体が揺れていた。 わずかに開いた死体の口からは、良い酒の香りが漂っていた。「ありがとうございます」 屋台を引いているおばさんはそうつぶやいて、月明りに目…
彼女と別れ話をするのに公園を、しかも繁みの近くのベンチを選んだのは失敗だった。 真剣な話をしている最中ずっと、彼女が耳の中で飼っているキリンが首を伸ばし、繁みの葉っぱをむしゃむしゃ食っていたせいで雰囲気が台無しだったのだ。 そもそもあいつが…
いつものようにお得意先の寿司屋にビールを配達しに行くと、電気の消えた店内で、誰かの影ががもぞもぞと動いていた。 目をこらすと、頭に蛸をかぶった大将が、一心不乱にお品書きを破り捨てていた。
この図書館に勤める司書は新人の頃、ちょっと変わったある作業を担当するのが習わしになっています。 それは、毎朝、来館者が訪れる前に児童書のコーナーへ行き、床に散らばった白髪の束を片づけるという作業です。 はい? それだけです。 ええ。 はい。 あ…
ある休日の午後、昔の恋人がベビーカーを押しながら、突然我が家を訪ねてきた。「何?」「今、時間ある?」「あるけど」「よかった。私、ないんだ」 そう言って彼女はベビーカーのひさしを外した。そこには、時限爆弾がくくりつけられていた。「どっちがいい…
私がまだ若かった頃、当時勤めていた幼稚園に泥棒が入ったことがあった。 ちょうどその前日に月謝を集めて金庫に入れたばかりだったので、関係者総出で盗まれたものを調べたのだが、何度確認しても、盗まれたのは園児たちが描いた家族の絵だけだった。 色々…
パッケージの注意書きを何気なく読んでいると、「温める際は衣服を脱がせてください」という一文が目に飛び込んできた。 慌てて電子レンジの扉を開けたが、時既に遅く、眼鏡や服は真っ黒に焦げ、ネクタイに至ってはすっかり燃え尽きていた。 中身を使う分に…
怪物に頭をかじられる直前、怪物の口の中に、ミントのガムの匂いが満ちていることに気がついた。 恥ずかしかった。 食べられるとわかっていれば風呂に入ってきたのに。