2022-01-01から1年間の記事一覧
図書館を出たら、宇宙服姿の人が立っていて、私を見るなり、「この星で最高の詩人は誰ですか」と問いかけてくる。
父が母に言う「アイシテル」の言葉はみんな口から出た瞬間砂になってしまうので、家の中ではいつも目が痛い。
私の叔父は、幽霊に脚を売る仕事をしている最中、幽霊に股間を蹴られて病院に運ばれた。
今夜は何だか星に手が届きそうだ、と夜空に向かって手を伸ばした時、星々に、釣り針が刺さっていることに気づく。
最近の蟻の巣の中には、蟻が首を吊るための部屋があるらしい。
事件後尼になった娘から届く手紙が、私の刑務所生活の中の唯一の楽しみだ。
今日、××市で、子育て中の母親たちが、ガラスで出来た赤ん坊を叩き割るイベントが催されました。
その砂浜にはその日、開けると中に折り鶴が入っている貝が、ちょうど千個流れ着いた。
今まさに雨雲を作っている神様の手に、手錠がかけられた。
役所に背中の翼を切られたから、明日から電車通勤だ。
引きこもりの兄宛てに届いた喪中葉書を、兄の部屋のドアの隙間から手渡す時、兄の腕の内側に、カッターか何かで「女」という字が彫られていることに気づく。
公園の段ボールハウスから聞こえてくる、すすり泣く声。さっきまであのハウスからは、ハッピーバースデーの歌が聞こえていた。
この間、剃刀が流れ着いた砂浜に、一昨日、包丁が落ちていて、今日は日本刀が流れ着いていた。どうも、何かが、何かに対してイライラしているような感じを受ける。
眠れないからぼくのクローンの数を数える。
その町には、馬になる病を診る専門の医院があったが、今は廃墟になっている。
「汚れた星を食うと胃がもたれる」という理由で地球はその危機を脱した。
空一面が白黒のマーブル模様だったので、何事かと思ったら、雲工場が火事なんだって。
ぼくを早く寝かしつける日は、お父さんとお母さんは決まって、夜中、ベランダに出て夜の街へ向かってシャボン玉を吹いている。
カツ丼がUFOのように飛んでいる空に向かって、世界中の豚が静かに豚の歌を歌い始める。
道端に落ちていたポケットティッシュに、ぬいぐるみ語で「人生相談」と書かれていた。
「笑うのは人間だけではありません」という書き出しで、獄中からの手紙は始まった。
「それが私の最後の願いです、どうか皆さん……」と語る校長先生が、体育館の壇上で、足元からだんだん金の塊に変わっていく。
他人の遺影を買い取っているおじさんがとうとうぼくの家にも来たが、おばあちゃんの遺影だけ買っていかなかったので、おばあちゃんはおじさんの他人じゃないのかもしれない。
べろべろに酔った無職の父親が縁側で、母親の育てている花壇にやってきた妖精の羽をむしりながら、「俺だって飛べないよ」などとぶつぶつ言っている。
不法投棄されたブラウン管テレビの真っ暗な画面の内側に、小さな宇宙飛行士が浮かんでいて、必死に助けを求めている。
「俺は隕石だったんだぜ」と、隣の墓石がまた法螺話を始めた。
「砂」の字で埋め尽くされたカルテだけが残されている、砂まみれの病院。
天井から、鼠が星を齧る音が聞こえてきて、ちょっと家を増築し過ぎたかな、と思う。
地球に安住の地はないと逃げ込んだ月にまで、線香の煙が追いかけてくる。
一夜しか生きられない我が子の誕生プレゼントに、月を贈ってやろうと思っている。