トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ある朝、蛇口の栓をひねったら、管から女のものとおぼしき指がにゅーっと出てきて、止まる気配がないので、引っ張ってぷちっと切ったら、外から「ぐゃっ!」と声がして指は蛇のように逃げていき、そしてその月、とんでもない額の水道料金を請求された。

お洒落

「見えない部分こそお洒落にしなきゃ」そんな友人のアドバイスを受けて、ぼくは歯車の専門店に出向いた。

今日の晩ご飯は「魚」のフライだった。身の詰まっている「田」の部分だけ食べて後は残したら、父さんに「下の「、」もカリカリで旨いぞ」と言われた。

ある新機種のスマホについてスマホで調べていたら、手の中のスマホがどんどん熱くなってきた。怒ってるのか、恋しちゃったのか。

z

お気に入りの詩集を読もうと思って本を開くと、すべてのページが「z」の字で埋め尽くされていた。眠っているのを起こすのも悪い。そっと本を閉じて本棚に戻した。そんな夜。

体重計

体重計に乗ったら液晶に「無理」と。

たった今自分が出てきたそこに深々と礼をしてから、赤ん坊はおぎゃあと産声を上げた。

覗き穴

今朝は髪の毛をセットする時間がなくて、脳天の覗き穴を隠さないまま登校した。なるべく目立たないようにしていたのだけれど、休み時間、うっかり突っ伏して寝ていたらその隙にクラスメイトの女子に穴を覗かれ「エッチ!」と笑われた。もう学校に行きたくな…

何もしない

「何もしない、何もしないって」「えー、絶対何かするもん」「何もしないって、ちょっと寄ってくだけだから」そんなやりとりをしながら、若いカップルがホームセンターの刃物売場に消えていった。

余白

本を食べてる時、やっぱり余白が一番美味いな、とつぶやいたら、妻に「じゃあふつうの白紙でいいじゃない」と言われたが、そうじゃないんだよなぁ。そうじゃないんだ。わかります?

長生き

「あっ、ここにほら、××社のロゴが入っていますので、長生きしますよぉ」と手相見の占い師に言われる。

子どもが「虹が見たい」というので冷凍庫から取り出して解凍しようとしたら、「霜がついてる方が綺麗だからそのままでいい」と言うので、解凍せずにお空に飾った。子どもの感性は独特だ。

最近、いやらしいことを考えていると、必ず飼い猫が引っかいてくるようになった。

凶器

ふとテレビをつけたら、ニュース番組が流れていて、「凶器に使われたものと同じもの」というテロップの上に、地蔵が映っていたのだが、すぐ次のニュースにいってしまったので、どんな事件かわからなかった。

アホ

あかんわ。なぁ、母ちゃんな、今日悲しい気持ちやから、裏の、アホの生る樹ぃから、ひとつ、もいできてぇ。

出前

あ、もしもし、出前をお願いしたいんですが。えーと、三人前です。空を飛ぶ夢と、犬と喋る夢と、美女とやる夢。はい、いつもの部屋でみんな寝てますので、はい、お願いしまーす。

手をあげろ

「手をあげろ!」銀行強盗が銃を手にそう叫んだ瞬間、銀行内の時計の針が一斉に2時50分を指した。

影が濡れてるってこた惚れたってことよ、はっはっは。

テントウムシ

テントウムシの二番目と四番目の黒点を同時押しで春が終了します。

キツツキ

キツツキとは別れた。キスがしつこかったから。

三日月

あ、もう三日月だ。そろそろ詰め替えないと。

プール

B組が使うから、プールに塩を溶かす。

行方不明

ここ半年の行方不明者のリストを片手に、医者は俺の口に胃カメラを突っ込んだ。

病気

私は今、目を閉じると、左まぶたの裏に「死」、右まぶたの裏に「ね」と浮かんでくる病気にかかっているのだが、たとえば明治時代にこの病気にかかっていたら、「ね」「死」になっていたのかなぁ。

その虫を地球儀にたからせると、国境の線をぺろぺろ舐めて消してしまいます。何だか説教臭いですね。見つけたら潰してしまいましょう。

動物園

この動物園の動物はみな、顔に、園長の顔にあるのとまったく同じ位置に、ほくろがついている。

テレビ

「テレビばっかり観ないの」とお母さんが注意してきたので、うるさいなぁと思ってボリュームを上げると、テレビから髪の毛の焦げる臭いが。「ほら、中のおじさんも限界みたいよ」

愛妻弁当

弁当箱の中のバッテリーにハート型のシールが貼られていて、「愛妻弁当だね」と同僚に冷やかされる。

泣きぼくろ

一緒に映画を観ていた娘の泣きぼくろが点滅し始めたので、もうすぐ泣くぞ。

愛をたっぷり入れたカレーを作ったが、鍋を洗う時に見たら、溶けきれなかった愛が鍋底にごっそり塊で残っていた。どうりで、子どもも夫も大した反応がなかったわけだ。