超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

物欲

物欲が急になくなったので、心配になって病院で診てもらったら、脳味噌の中に、巨大なダイヤモンドが見つかった。

満員電車

満員電車の人混みの頭上を、紙飛行機がすーっと飛んでいくのを、誰も見ていない。

家じゅうの窓ガラスや鏡を叩き割った女が、最後に長年愛用していた手鏡を踏んで割ろうとした瞬間、脚から鏡の中に吸い込まれる。

猫を捨てる

一匹の猫を捨てるために、宇宙の果てまで来てしまった。

葬式

葬式の参列者の一番後ろから前へ、前から坊主へ、坊主から死体へ、あくびがうつっていく。

苺ジュースの時間

受験勉強が一区切りつくと、彼女は脳味噌を取り出してベッドに放り投げ、空っぽになった頭の中に苺ジュースを満たす習慣があるが、その苺ジュースの時間がなければ、もっと上の学校を狙えるだろう、と担任から言われている。

日傘

私以外の生物がいない星で、日傘をさして歩いていたら、太陽が拗ねていつもより早く沈んでしまった。

司書

妻が図書館に子を捨てたと涙ながらに告白したので、慌てて図書館へ取り戻しに行くと、子は既に、司書たちの手によって一冊の哲学書に変えられてしまっていた。

悟り

その寺の坊主は全員禿げ頭に月と同じ模様が描きこまれており、悟りを開いた者から順に、夜空へと旅立っていくのだという。

見本

胸の真ん中に「見本」という字を彫られた全裸の男が、昼下がりの団地で、マンションのドアを一つ一つ、泣きながら叩いて回る。

海の底

海の底から、カッ、チャッ、ガスコンロのツマミをひねる音がした。

背中に翼が生えている私の友人は、子どもの頃からずっと気象予報士を目指している。

賭博

猫賭博で百二十万円分の鰹節をすってしまった。

喫煙所

家庭にも職場にも居場所のない男が、町はずれの喫煙所で、周りの喫煙者にぺこぺこ頭を下げながら、金魚を食っている。

夏空

夏の午後、ふと見上げた空に、雪だるまのタトゥーを入れた入道雲が。

その蝶を追いかけて、太陽は今日、東へ沈んだ。

そのピアノの調律師は、いつも一匹の蛙を連れている。

求愛行動

雄餃子が求愛行動の時に発するあのにおいが好きなので、餃子セットに別料金を払って雌餃子をつけてもらったのに、間抜けなことに、間違えて雌餃子を一番先に食ってしまった。

メール

死んだ恋人から、メールが届く。「君のピアノが聴きたい」ピアノを習っていたのは、私の姉だ。

盛り上がる話

防犯カメラ同士の合コンで絶対に盛り上がるあの泥棒の話。

金魚の墓

アイスの棒で作った金魚の墓が一本、月の裏側にたてられていた。

お墓

はは……すいません、この国のお墓は食べられないんです……。

のどあめ

かみさまに、「のどあめかってきて」って、いわれた。にんげんに、なにか、だいじなこと、つげるんだな。

砂糖

君が作ったその砂糖が、蟻の世界をぶっ壊したんだよ。

太陽

結局太陽は地球の葬式に来なかった。

夜の公園のベンチ、ぼくの顔を見た彼女がふふっと小さく笑って言う。「あなた、右目だけ、月が二つ映ってるわよ」

生えてくる

腿の内側に、毛に混じって時々、「その他の危険」の標識が生えてくるが、硬くて痛いので抜くと、その夜は必ず嫌な夢を見る。

契約書

契約書にハンコを捺した瞬間、約束の雨が静かに降り出し、私は傘屋の男の子へ会いに行く準備を始める。

くす玉

姉の遺骨を入れたくす玉を、母に割ってもらい、パーティーが盛大に始まる。

信号待ち

信号待ちの時、片手に生首を提げている人の横に立った女子高生が、生首をちらりと見て、スカートを押さえた。