疲れた顔の男が、深夜、「酒・たばこ・小鳥」の看板があるコンビニへ入っていった。
ずっと拾われない捨て猫の傍らに、誰かが招き猫を置いた。
祖父の畑で採れるトマトは、影まで赤い。
くしゃみを我慢した瞬間、鼻の穴の中から、舌打ちが聞こえた。
明け方のゴミ収集所でゴミ見酒を楽しんでいたら、余興に、カラスが舞を舞ってくれた。
葬儀場の客引きを軽くあしらって墓参りに行く。
神社の賽銭を盗んで買った宝くじで一等が当たり、恐ろしくなってくじを破り捨てる。
害虫駆除業者の男が、帰宅するなり、妻のお尻を撫で、毒針を探している。
その日、国じゅうのピアニストが集まって、玩具のピアノを鳴らしながら、独裁者のもとへ行進していった。
神様に送ったメールに生命を添付したので、コンピューターの動作が少し重い。
仕事中、電卓を叩きまくっているうちに増殖した指を、昼休み、鋏で切り落としている。
夏の公園で蝉たちが、「プログラムを更新してください」と鳴いている。
のれんに「できたて」と書かれている金魚すくいの屋台の店先で、店主が金魚の魂を手でこねている。
僕の初めての放火の記念にお母さんが作ってくれたケーキの、炎を表現しているイチゴが美味しい。
火葬場のゲームコーナーにある格闘ゲームは、炎を操るキャラクターが使えない。
不幸せに効く薬が売り切れたのを見て、薬局の店主は幸せな気持ちになった。
三日月が大好きな娘さんのために、月を削るため、親方はブルドーザーに乗って長い旅に出た。
スーツを着た男たちが、公園で蟻を潰して、砂糖会社の株価を操作しようとしている。
悩む除湿器に、海を見せる。
恋愛成就のお守りの中に、記憶をリセットする薬が入っていた。
政府による今日のあくびの制限は三回なので、夜寝る時と会社の昼休みと、あと一回はいつにしよう。
おばあちゃんは年だから、夕飯は惑星一個で充分だよ。
そのおじさんは、喫茶店のおしぼりで、手だけでなく、顔や、膝の上の頭蓋骨まで拭いていた。
物置の奥で、もうしばらく使っていないお母さん交換機が錆びている。
去年、花粉の時期が終わると同時に旅に出た鼻毛たちが、今年、ついに、俺の鼻に戻ってくる。
古本屋で詩集を手に取ったらページの間から蝶が出てきて飛んでいき、そのことを店主の婆さんに言ったら、半額になった。
点滴袋にお猿さんのシールが貼られている少女と、点滴袋にバナナのシールが貼られている少年が、小児病棟の廊下ですれ違う。
席替えしてから、彼女の尻尾の先は左に曲がるようになった。
赤ん坊が口に含もうとしていた人工衛星を、巨大な手が優しく取り上げた。
その川はここ数百年、自身の中を流れる石を、人間の心臓の形に削ることを趣味としている。