トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

南極の上空に大量に現れた星をめぐって、科学者たちは様々な意見を戦わせていたが、地球に巨大な麺棒が迫ってきたのを見てようやく気づいた。これ、星じゃなくて、打ち粉だ。

繋がる

近所のマンホールの前に、宇宙服を着た人たちが行列を作っていた。そういえばこないだ地球のアップデートがあったな。意外な場所同士が繋がったものだ。

注意

何、消えた?だから言っただろ、棺桶の蓋閉めたらダメだって。あの仏さん、元手品師なんだから。

目次

夜、寝る前に、明日の目次を確認する。目立った事件はないが、「15時頃、急にお腹が……」と書かれてある。痛くなるのか、鳴るのか。最後まで書いていないのが目次の憎いところだ。まぁ、でも大昔は目次すらなかったというし。あるだけありがたいのかもしれな…

夕焼けを眺めていたら、とつぜん夕日に、目玉の写真が映し出された。「こうなる前に……」町じゅうのスピーカーからそんな声が聞こえる。眼科の広告らしい。どうやら真っ赤な夕日を、真っ赤に充血した目玉に見立てているようだ。が、どうにも気味が悪い。たぶ…

駅の話

「駅(1)」 電車ごっこをしていた子どもたちが、墓地の前で何かを降ろした。 「駅(2)」 地元の駅は駅員一人で切り盛りしている駅だから、電光掲示板に時折「母が死にました」とか表示されるので面白い。 「駅(3)」 いつも「火星」の駅で降りていくあの子の七…

電信柱

ぼくらの町の電信柱は、虫ピンも兼ねています。だから動き出すことはないけれど、外を歩く時は鱗粉で足を滑らせないように注意しなければいけません。いつか空から見てみたいなぁ、と思っています。

解体

神社の石段の上から、ネジが一本転がり落ちてきた。続いて、朱く塗った木片がカラコロと。その次に落ちてきたのはナット、バネ、そしてキラキラ光る石。どうやら石段の上で、何かが解体されているようだ。神様じゃなきゃいいけど。

水と声

バイト先のカラオケ店に、蛇口の客がやってきた。台所からシャワー、庭にあるものから洗濯機用のものまで、様々な種類の蛇口の団体客だった。普段水ばかり出しているから、たまには声を出したいということらしかった。案内した部屋へと向かっていくシャワー…

義母

お義母さんとは「編み物」という共通の趣味があるので、お互いが着るセーターなどを編み合ったりして仲良くやっているが、違う星の人だということをつい忘れて、いつも袖の本数を間違えてしまう。

注文

「今日はどんな感じに?」「全体的に短くしてください」「もみあげはどうします?」「自然な感じで」「眉毛の下は?」「剃ってください」「ネジは?」「締めといてください」

歯医者さんの顔が蟻そっくりだった。小さいけれど額には触角らしきものまで。訊いてみると、お母さんが改心した蟻だとのこと。うーん。「改心した」って、何か、嫌な言い方だな。蟻より歯医者さんの方が正しいみたいで。

ブレーカー

思い切り鼻をかんだらブレーカーが落ちた。やっぱり充電中はおとなしくしていないと、だめだな。

荒野の果てに建っていた謎の塔の正体が毛糸の先端であることが判明し、地球が巨大な毛糸玉である可能性が出てきた。

風邪

別れた恋人との思い出の写真を、ハサミで一枚一枚切り刻んでいたら、その夜、ハサミが風邪をひいた。刃を触ると熱くて、ちょきんちょきんとくしゃみが止まらなくて、看病が大変だった。次の日文房具屋に持っていくと、おじいさんの店員さんに「あなたが写真…

譜面立てに、美しい蛾が一匹、羽根を広げてとまっていた。「私を弾いてごらん」そう言われた気がして、ぼくはピアノの前に座り指を構えた。一方お母さんは殺虫剤を構えていた。

父と冷蔵庫

酔った父が冷蔵庫の中に入っていってしまった。風邪をひくと思って扉を開けたら、父は三つ残っていた卵たちと麻雀卓を囲んでいた。呑気なもんだ。人が心配しているのに。眠かったのでそのままにして扉を閉めた。翌朝、すっかり冷え冷えになった父が冷蔵庫か…

足音

足音を食べる宇宙人が地球にやってきてから、靴屋さんの数が爆発的に増えた。今や街のいたるところでコツコツ、ザクザク、ムギュムギュ、パフパフ、色んな足音が聞こえてくる。そういえば、裸足で歩く人も増えた。媚びすぎじゃないか、と思っている人もいる…

水平線

水平線の向こうに沈む夕日の中に、もう一つ小さな丸いものが見える。と思ってよく見ると、それは水平線の結び目だった。ほどけていたのを誰かが結んでくれたようだ。結んだ分、世界は少しきゅっと小さくなっただろうが、ほどけてバラバラになるよりはいい。

愛してる

今日は朝から珍しく機嫌が良かったもんでさ、たまには女房に「愛してる」なんて言ってみるか、と思ったんだけどよ、いざ言おうとしたら、埃が積もってるわ、ネジは緩んでるわで、「愛してる」がぼろぼろだったのよ。ずいぶん言ってねえからなあ、最後に言っ…

綿

彼と手をつないで初めて、彼の中身が綿だと気づいた。ああ、そうか。いつも口元が笑っているのは、そういう形のフェルトだからか。ああ、そうか。いつも瞳がキラキラと輝いてるのは、ビーズだからか。あれれ。でも、そうすると、彼のこの温もりは、一体どこ…

日々勉強

「食パンの耳、取ってもらえますか」そう言うとパン屋の店員はにこりと笑い、「かしこまりました」と答えつつ、耳の部分のネジを手際よく外して、あっという間に耳のない食パンにしてくれた。近くの公園へ行きベンチへ座り、家から持ってきたジャムを隙間な…

アザ

彼女が本棚から落ちてきた。とっさに彼女を抱きかかえる。彼女のからだのあちこちに、さまざまな文字のかたちをしたアザが残っているのに気づいた。「出てくるとき、いろいろあって」彼女は照れたように笑った。彼女がいなくなって少し軽くなった本を本棚の…

担当

向かいの家のベランダの物干し竿に、おばさんの皮と、息子の皮と、犬の皮が干されていた。すごいな、あの家。全部一人でやってるんだ。

警告

ピピーッ、ピピーッ。笑顔が少なくなっています。もっと楽しく生きましょう。ピピーッ、ピピーッ。笑顔が少なくなっています。もっと楽しく生きましょう。ピピーッ、ピピーッ。笑顔ガン!ガン、ゴン、ガン!ピィーーーピィィィーー……。

お兄ちゃんの日

隣家の表札には、家族全員分の名前が書かれていて、その下にはあみだくじの線が引かれており、辿っていくと、一つだけ猫の顔のマークに行き着くものがある。線の形は毎日更新されていて、隣家には毎日違った模様の猫が出入りしている。奥さんが猫の日などに…

飼い主

「よーし、じゃあ、ジャンケンで勝った方が、負けた方の飼い主な」そうして始まった私の今の生活ですが、週に一回は刺身を食べさせてもらえるし、時々麻雀にも混ぜてもらえるので、案外不満はありません。あ、トイレがちょっと面倒かな。

仕事

教頭先生の姿が見えない時は、理科の授業で骨格標本が使われている。教頭先生がいる時には、理科準備室から骨格標本が消えている。間違いないと思うが証拠がない。噂によると、「皮」を探し出すのが、生徒会の裏の仕事らしい。

ほくろ

女房の背中にある二つのほくろは、毎日その位置が微妙に変わっている。「星の動きと連動してるのよ」と女房はふふんと得意げに笑うが、ぼくは夕飯のメニューが関係しているような気がしてならない。

標識

ある日、近所の墓地の前を通りかかると、墓地の入り口に標識が立っていた。「幽霊禁止」の文字の上に、幽霊のシルエットに斜線が引かれたイラストが添えられている。ここの墓地、前々から「出る」って噂だったもんな。でも、標識一つで出てこなくなるような…