トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

練習

初夏。姉が庭に出て、陽の光を浴びながらぼーっと突っ立っていた。「何してんの?」「練習」「何の?」「んー……」そんなことが数回あった後のある夏の日、いつも姉が立っていた場所に姉はおらず、一本の向日葵が咲いている。

雨がかすかに、酒の匂いがする。いい雲だね。

ちらちら

家の電気がちらちらちらついてきた。電柱を見に行くと毛が生え始めている。剃らないと。

気を遣って

叔父が遊びに来ると、気を遣って、パトカーのミニカーを隠す弟。

ダイエット

「ダイエットだよ」とつぶやいて、ダッチワイフの空気を少し抜く。

貼り紙

「百円以上入れてください」と貼り紙がされた賽銭箱。

茶柱

借金の申し込みに行った親戚の家で出されたお茶の中に、茶柱が立っていた。なぜか気づかれてはいけない気がして、すぐに指でつまんでそっと捨てた。結局、金は借りられなかった。

死にたい

あの定食屋のおばさんは、ぼくが「死にたい」と言うと、「知らねーよそんなの」と言ってご飯を無料で大盛りにしてくれる。

かご

放置自転車のかごにねじこまれている、丸めたウェディングドレス。

風鈴

同じ房の「風鈴おじさん」が窓に近づき、わずかな隙間風に反応して、「チリンチリーン」と言い始めた。今年も刑務所の外に夏がやってきたのだ。

教えて

叔父さんに「算数教えて」と頼んだら、叔父さんは頭に刺さった無数の釘の中から一本抜き、「さぁ、吸え!穴、吸え!」

一週間くらい

一週間くらい、ポジティブなこと考えないでくださいね。じゃ、お大事に。

三日月

あ、間違って三日月にしちゃった……まぁ、いいか……地球……誰もいないし……。

エコーで見たお腹の中の我が子の口が「ドアホ」と動いている。

眠れない

今夜は眠れないので、父の部屋に、一枚しかない母の写真を借りに行く。「よだれつけんなよ」「うん」

他人の雲から降る雨に打たれると、何だかすごくむかつく。子どもっぽい私。

不味そう

お前、すげー不味そうな星に住んでるな。

汚した

雨上がりの道で、両手を虹で汚した子どもたちとすれ違った。……大人になった今では、近づき方さえわからない。

この間のおちんちんの形の雲が批判されたので、神様はしばらく禁酒することにしたそうです。

これ

これ?へその緒。え?彼氏の。自分の持ち歩いてたら馬鹿みたいじゃん。え?

蝿叩き

右手に星の詰まった袋、左手に蝿叩きを持って、ニコニコしながら孫の待つ家に帰る老婆。そして、少し星の減った夏の夜空。

流れ星

流れ星を夜空に投げるバイトの時、いつもは使わない軍手をはめないと掴めないやつが一つあった。あれは願いを叶えそうだ。

缶詰

脳の缶詰を食ったら甘いところがあった。恋の記憶だ。珍しい。

苺ジャム

影の、胸の、真ん中を、ハート形に、切り取って、苺ジャムを、詰める。可愛い。けど、蟻が。

明日

明日は楽しみにしている運動会なのに、テレビのどのチャンネルも「明日の天気……ナイショ」

意味わかんない

「意味わかんない、意味わかんない……」とつぶやきながら、墓石の前で坊さんが頭を抱えてうずくまっている。

夏、窓の外の雷を眺めながら、仰向けに寝っ転がっていたら、飼い犬がとぼとぼとやってきて、ぼくのおへそを前脚でそっと隠した。

だめだね

そのことがあってから、月と太陽のリモコンは神様が没収してしまったそうだ。人間は、だめだね。

猫葬

祖父は猫葬で弔われた。体の大きかった祖父は、十六匹の猫になって帰ってきた。私は白猫をもらった。背中にほくろのような点が一つ。私は、ああ、右手だ、と思ったが、祖母は「金玉だ」と言って譲らない。

先生

お世話になっている占い師の先生と同じ精神安定剤を飲んでいます。