超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

満月は喉に詰まる、三日月は口に刺さる、半月がいい、半月が、半月がいいの。

クジャク

どの動物園に連れて行っても必ず、うちの娘はクジャクに求愛され、妻はそれを見てうつむく。

朗読

それでは引き続き、昭和××年に亡くなった方々の死因の朗読でお楽しみください。

ご自由に

その床屋の店先には、「ご自由にどうぞ」の紙が貼られた長い髪の女の生首と、よく研がれた鋏が一本置かれている。

体重

母の体重が増えると、なぜか親類の誰かがやせ細って死ぬ。

説明書

添付されていた説明書が分厚かったので、出産の際はずいぶん大変だったそうだ。

金魚

金魚すくいでようやく捕った、丸々と肥えた金魚を私に手渡す瞬間、屋台の親爺が「どうかご無事で」とささやいたが、それが私に向けられたものなのか金魚に向けられたものなのかわからない。

あこがれ

「これね、全部、死神のサイン」、そう言ってにこにこ笑いながら、死ねない婆さんは色紙の束を取り出した。

位牌

うちの婆ちゃんは毎年、爺ちゃんの命日が近づくと、仏壇から取り出した爺ちゃんの位牌に、ヒルをたからせ何かを吸わせている。

太陽

なお、明日支給される太陽は無添加ですので、久々のお洗濯日和となりそうです。

他人に親切をした日は必ず、家に帰ると、「本当の君」と裏に書かれたあの時の写真が、郵便受け一杯に詰められている。

静かな日

隣家の庭の「躾」と彫られた石に、血しぶきが飛んでいたので、今日は一日静かな日です。

青い雨

明日は全国各地で青い雨が降るため、水たまりを覗くと亡くなった人たちが映り込んでいますので、思わず立ち止まって遅刻などしないようご注意ください。

時給

母を殺した翌日、バイト先の時給が上がったので、今度は父を殺してみたが、ただの偶然だったようで、時給に変化はなく、少し残念です。

彼とのデートの思い出を話していただけなのに、母は「気味の悪いこと言ってないで、早くお祓いに行きなさい」と取り合ってくれない。

どれ

首のない少女を見かけたのでとりあえず交番に連れていくと、警官は「どれかな?」と言いながら、奥の部屋から少女の首を三つ持ってきた。

処方

しばらくじっと考え込んだ後、医者は私に一人の少女を処方した。

おかしい

どの家に放火しても必ず仏壇だけ焼け残るんだ、この町はちょっとおかしいよ。

写真

また今朝も目覚めれば、スマホのメモリーに、俺の葬式を写した写真がきっかり百枚増えている。

小瓶

お母さんはいつも料理の仕上げに、ぼくのお皿には「○」と書かれた小瓶を一振り、おばあちゃんのお皿には「×」と書かれた小瓶を一振りして、何かの粉をまぶしている。

おやつ

今晩は久々にオーケストラを食べるから、おやつはオルゴールで我慢する。

マネキン

夜の見回り中、あのマネキン人形の前を通ると、必ずスマホが「出して」とだけ書かれたメールを受信する。

うろこ

図書館で借りようと思った本に蛇のうろこのような物が挟まっていたので、司書のお姉さんに尋ねると、「その本は今かみさまが読んでいるようですのでお貸しできません」と、ペコリ、頭を下げられた。

かくれんぼ

かくれんぼに混ぜてやってもいいけど、次またあんなところに隠れたら、その羽根むしるからな。

バナナ

天井から吊られたバナナを取る実験に付き合わされた時のことを、梁から首を吊った主人を見上げながら、猿はぼんやりと思い出している。

末路

その焼き肉屋のメニューには「牛の末路」としか書かれていないので、それがどの部位であるかは値段で判断するしかない。

田んぼ

この国で唯一の幻の米を作ると言われる爺さんが、今夜も月の映る田んぼの水に、自分の涙を一滴ずつ垂らして回る、死んだ婆さんの写真片手に。

夕暮れ

自転車の籠に王冠をかぶった生首を入れて、革命帰りらしい女子高生が街を駆け抜けていく穏やかな夕暮れ、BGMは……。

理科

授業をしていたら、2組が使っている理科室から赤ん坊の産声が聞こえてきたが、2組の理科のテスト成績を考えると、果たしてどれくらい生きられるか。

アレ

あ、それから、3005号室の××さん、アレになつかれ始めてるんで、明日病室移動してあげてください。