超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

点滅

脳味噌の形をした巨大な雲に一羽の鳥が突っ込んでいき、その瞬間、世界が点滅した。

へそ

腹を見せて眠る犬のへそに何気なく指を突っ込んだら、「設定を変更しました」という音声が犬の口から漏れた。

ボタン

廃ビルの外壁に「誰かのお腹が痛くなります」と書かれたボタンがあって、仕事の帰りによく一押ししていたのだが、今日見たら100円を入れないとボタンを押せないように改造されていて、嫌な気持ちになった。

感触

ベッドから出て床に足をついた瞬間、見えないカニクリームコロッケを踏んだ感触がする、という現象が毎朝起きている。

芸能人

ここ数週間、テレビに出てくる芸能人たちの、右手の同じ所に、同じ大きさの絆創膏が貼られている。

サンタさん

クリスマスの夜、サンタさんが枕元に置いてくれた離婚届を、翌朝、喜んでお母さんの所へ持っていく。

患者

医者の父は未だにその患者のことを気にかけていて、休日があるたびに墓場に行き、その患者の墓石に聴診器を当てている。

立ち読み

コンビニの前に、首のないひな人形が置かれていて、コンビニの中に、ひな人形の首を口にくわえて雑誌を立ち読みしているおじさんがいる。

擬態

アスファルトの地面に擬態する蝶がいて、その目的は人間に踏まれて死ぬことらしいということが最近の研究でわかった。

詩人

詩人の父は足の指にペンだこがある。

夜明け

夜明けの空に、カチッ、カチッ、と二回マウスをクリックする音が響いて、今日も朝日が昇りはじめた。

殺虫剤

私が殺虫剤をかけて殺したゴキブリを見て、「この子今日誕生日なのに」と娘がつぶやく。

文明

地球が入っていた段ボール箱の四隅で文明が誕生していた。

浮気

天丼を旨そうに食う客の背中にびっしりと、カツ丼の幽霊が張り付いていた。

シャツ

窓辺に干したシャツが、風もないのに激しくはためいていて、それを見ているうちに、ああ、あれは見えない何かがシャツを着ようとしているのだ、とふと気づく。

お悔やみ欄

地元の新聞のお悔やみ欄に、あの実験の事故の被害者たちの名前が載っており、全員の享年がマイナス3歳と書かれている。

更生プログラム

羊たちが収監されている刑務所では、更生プログラムの一環として、人間の孤児院の子どもたちが眠る前に数える羊の役を任される。

私は、この星の大地に刻まれた巨大な「SAMPLE」の文字の、「A」の中にできた街に住んでいる。

風邪

詩集が風邪をひいて、どのページを開いても愛の詩ばかり載っている。

美女

ある夜、道端の地蔵の背中が割れて、中から美女が現れ、まっすぐホストクラブに向かっていった。

シャツ

電車内で、ライオンが描かれたシャツを着た人が、シマウマが描かれたシャツを着た人に、席を譲っていた。

一発ギャグ

太陽の一発ギャグで地上の全生物が干からびた。

夏空

夏空を見上げた病床の祖母が、「あらやだ裸……」と笑って入道雲を指さすが、ぼくにはいつもの入道雲と何が違うのかわからない。

福笑い

さっき親戚の家で遊んだ福笑いのパーツに触角があったことを、帰り道にふと思い出す。

うちの犬

救急車やパトカーのサイレンにならわかるけど、どうしてうちの犬は霊柩車が通った時にだけ遠吠えするのだろう。

交尾

交尾する自販機の周りに散らばる缶ジュースが、熱帯夜の熱でゆっくりぬるくなっていく。

骨格標本

授業中、理科室の隅の骨格標本の頭がひとりでに動いて、整骨院の息子をじっと見つめ始めた。

玩具

巨大な赤ん坊が、刑務所の廊下をハイハイで進みながら、玩具にする囚人を探している。

太陽系が丸ごと入る鞄のファスナーが、少しずつ開けられていく音が、宇宙に響いている。

男たち

毎日毎日、工事現場の看板の中で、「ご迷惑をおかけしております」と頭を下げている男たちが、今夜、彼女のコンサートに招かれた。