超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2025-06-01から1ヶ月間の記事一覧

あみだくじ

病室のベッドでぼんやりしていた時、外から、救急車のサイレンが近づいてきた。この病院に運ばれてきた人らしい。手元にあったノートに、ペンで、あみだくじを書く。二本の縦線を引き、その先に『助かる』『助からない』と書いた。運ばれてきた人の運命をこ…

夕日

「夕日がきれいだよ」ある夕方、コンビニの店内の防犯カメラは、視線の先にいた老婆に、そう声をかけられた。防犯カメラは、首をもたげ、店の外の夕日を見ようとした。しかし、なかなかうまい角度が見つからない。じたばたしている防犯カメラを見て、老婆は…

枕と夢

今日もまた一枚、以前履歴書を送った企業から、不採用通知の紙が届いた。俺はそれを家庭用シュレッダーにかけ、紙くずにした。紙くずはずいぶん溜まっていた。それらは全部、不採用通知だった。俺は溜まった紙くずを、ゴミ袋に詰めた。そして俺はそのゴミ袋…

その少年には影がなかった。夕暮れの公園で遊ぶ同級生たちの影が地面に踊るのを、いつも羨ましく見ていた。ある時から少年は、近所の寺に行き、神様が自分に影をくれるよう、少ないお小遣いを賽銭箱に投げては、祈っていた。その様子を見ていた寺のお坊さん…

勇者は魔王を倒した。魔王の城の奥には、一個の宝箱があった。勇者はその宝箱を開けた。中には、首吊り縄が入っていた。勇者は、魔王にとどめを刺した瞬間の、魔王の安らかな顔を、思い出して、泣いた。

掃除機の判断

散らかった自室の、見えている部分だけでも綺麗にしようと、物は片づけないまま、とりあえずロボット掃除機を放った。床に落ちていたノートに、ロボット掃除機が近づいた時、ノートのページの間から、何か黒い塊が吸い込まれていくのを見た。おそるおそるそ…

素晴らしい晴天

朝の満員電車で、隣に立っていたおっさんの、吊り革を掴む手の、その手の甲に、何か文字が書かれていた。『死ぬ』ボールペンか何かで、そう書かれていた。おっさんは窓の外をじっと見つめていた。俺も窓の外を見た。素晴らしい晴天だった。おまけに暖かい春…

奉仕

夜中のコンビニで、スナック菓子と酒を買い、無愛想なバイト店員に会計をしてもらっている時、ふと、レジ横の募金箱に目が行った。その募金箱には、数多くの硬貨と、わずかな紙幣、そして、数枚の人間の爪が入っていた。えっ、これ、人間の爪だよな。俺がそ…

返品

昼下がりの神社の社務所を、一人のおばさんが訪れる。おばさんは窓口のベルを鳴らす。誰も出てこない。おばさんは目の前のカウンターに、『病気平癒』のお守りを叩きつける。「ちょっとすみませーん!」誰も出てこない。「これ、返品したいんですけどー!」…

ニーズ

夜中、テレビをつける。CMが流れている。「葬儀のこと、ご相談ください!」チャンネルを替える。CMが流れている。「葬儀のこと、ご相談ください!」チャンネルを替える。CMが流れている。「葬儀のこと、ご相談ください!」チャンネルを替える。CMが流れてい…

チャンピオン

無数の観客に囲まれた、リングの上で、一人のボクサーと、月が対峙している。ボクサーは月を睨んでいる。月はふよふよと浮いている。試合開始のゴングが鳴り響く。数分後、ボクサーは、ウサギの毛まみれになって、リングの床に倒れている。

ブー!

町はずれの定食屋に入った。初めて入る店だった。昼時だったが、俺以外に客はいなかった。メニューを見た。可もなく不可もなくだ。「何にいたしましょう!」威勢の良い店主の老人が出てきて言った。「じゃあ、トンカツ定食」「あいよ!」老人は厨房に入って…

鳥かご

「ご家庭でご不用になった物……」廃品回収の軽トラが商店街をゆっくり走っていた。「これお願いしまーす!」軽トラにそう声をかけた少年がいた。少年は空っぽの鳥かごを持っていた。彼は焼き鳥屋の一人息子だ。

メッセージフォーユー

中年のサラリーマンは、一人残業を終えると、油性ペンを持ってトイレに行き、鏡の前で、禿げあがったおでこの中央に『疲れています』と書いた。そして、終電に乗るために駅に行った。駅にはそれなりに人がいたが、皆、彼のおでこをちらりと見るだけで、誰も…

7さいおめでとう

離婚した元妻が、俺の経営するケーキ屋に、息子の誕生日ケーキを注文しに来た。「チョコレートのプレートに『7さいおめでとう』って書いてください」俺はそのプレートを作りながら、「そうか、生きてればもう7歳か」と感慨深くなった。きっとこのホールケー…

古いテレビ

古いテレビだ。もうだめだそうだ。テレビは病室で、点滴が繋がれている。テレビは静かに息をしている。その時、病院の外から、五時を告げるチャイムが流れてくる。テレビは目を覚ます。テレビは俺の顔を見て、幼児向け教育番組を、画面に薄く映し出す。「坊…

隣人

赤ん坊の息子が泣くたび、アパートの隣の部屋から壁を叩かれていた。そしてとうとう、郵便受けに、『あかんぼううるさい』と書かれた紙が入れられていた。それから数日間、毎日その紙は入れられた。ある日、大家さんにこのことを相談しようと、息子を背負っ…

冷めたトースト

朝、食パンをトースターに入れ、そのトースターを窓の外に置く。スープや目玉焼きを作っている間に、トーストがポーンと飛び出す。それはどこまでも飛んでいき、雲を突き抜け、見えなくなる。やがて、スープが程よく冷め、目玉焼きが出来上がる頃、トースト…

人間そっくり

飼いイヌの散歩のついでに、ドッグフードを買おうと、飼いイヌと一緒に、ペットショップに入った。いつものドッグフードを探していた時、棚に、見慣れない新製品があるのを見つけた。そのドッグフードのパッケージには、『人間を目指すワンちゃんへ!』と書…

チョウと人間

肩から虫かごを提げた少年が、俺がバイトしているコンビニに入ってきた。少年はコピー機の前に立ち、虫かごから一匹のチョウを取り出した。そして小銭を入れ、コピー機の蓋を開けると、読み取り部分にそのチョウを置いた。あっ、と思った瞬間、少年は蓋を閉…

夕日

ある日、神様が我が家を訪ねてきた。「夕日を友だちに貸してもいいですか?」と訊かれた。俺は夕日など見ないので、「いいですよ」と答えた。そしたら神様は「どうもすみませんね」と言って、隣の家に歩いていった。耳を澄ませると、隣の家でも同じやりとり…

ともだちがほしい

通勤時に通る電車の高架下のトンネルの、コンクリート壁には、落書きがたくさん書かれている。その中の一つに、スプレーで『ともだちがほしい』と書かれている落書きがあった。ある朝、そこを通ったら、『ともだちがほしい』の下に『↓どうぞ』と書き足されて…

青い画鋲

道を歩いていたら、頭上から何かが地面にぽとっと落ちてきた。それは青い画鋲だった。上を見上げると、青空の端がめくれて、そのめくれたところから、夕空が見えていた。腕時計を見ると、まだ午前十一時だった。

野菜嫌い

結局、息子は幼くして死ぬまで、野菜嫌いを克服できなかった。それが心残りだった。四十九日が過ぎた頃、ある日、八百屋で買ってきたキャベツに、青虫が這っているのを見つけた。取り除こうとした時、その青虫の顔が、息子の顔をしていることに気づいた。青…

蘇生薬

魔女から蘇生薬を買って、それを喪服のポケットに突っ込み、祖母の葬式に出た。棺桶の蓋を閉める直前、蘇生薬を祖母にかけようとしたが、やっぱりそれはいけないことのような気がしてきて、結局その蘇生薬は使わなかった。家に帰り、玄関脇でチョウチョが一…

先輩のおごり

仕事場の後輩と一緒に帰っている途中、飲み物が欲しくなったので、近くにあったドラッグストアに立ち寄った。「何かおごってあげるよ」と後輩に言うと、「いいんですか?」と言って、後輩は、精神安定剤を持ってきた。おごった。

輪廻

公園で青年がギターの弾き語りをしていた。青年の前にはギターケースが置かれていて、その中には小銭が入っていた。青年がそこを離れた隙に、公園に住む一人のホームレスがやってきて、ギターケースの中の小銭を盗んだ。そしてホームレスは、その小銭で、の…

うそと舌

うそをついてしまう自分がいやで、舌を切り取って、庭に埋めた。その翌朝、口元のくすぐったさで目が覚めた。見ると、土まみれの舌が、僕の口の中に戻ろうとしていた。そんなにもうそをつきたいのか、僕の舌は。もしかしたら、うそをついている時の僕が、本…

良心

理科準備室の掃除をしていたら、そこに置かれていた人体模型が、何か変であることに気づいた。よく見ると、臓器と臓器の間に、紙粘土の塊がねじ込まれている。「それ、僕のオリジナルの臓器」そう声がして、振り向くと、一番若い理科の先生がいた。「その臓…

擬態

そのチョウの一種は、墓石に擬態する。そして、墓参りに来た人間の涙を餌に生きている。しかし最近、ほとんど絶滅したそうだ。餌がとれなくなったのが原因らしい。最後の一匹が死んだら、誰かそのチョウの墓を建ててやってほしい。