超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ミカン

 今日は夕日がやすみだから、こたつのミカンを夕日のかわりにすることにした。家を出て、丘にのぼり、暗い地平線にミカンを近づけていくと、ミカンはある地点でぼくの手からするりとぬけだし、夕日のかわりに地平線にゆっくりと沈んでいった。翌朝、太陽よりもはやくぼくの手の中に戻ってきたミカンには、砂漠の砂と密林のツタがくっついていた。地球を一周してきたミカン。もったいぶって飾っておいたのだけれど、我慢しきれず、その日の夕方、まるで宝石箱をあけるように、ドキドキしながら皮をむいた。中の実は、少したくましく見えた。ひとふさ口に放り込むと、かすかに海のにおいがした。窓のそとには、やすみを終えていつものように輝く夕日があった。けれどそれより、ぼくのミカンの方がまぶしく見えた。