超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

カボチャ

ゆでた掌をザルに上げた瞬間、風呂上がりを連想してビールを飲みたくなった。 何でだろう。お酒なんて一滴も飲めないのに。 一度だけ飲んだことはあるんだけど、気持ち悪くなるばかりでちっとも酔えなかったから、それ以来お酒は飲んでいない。 もちろんビー…

山に返す

明日は恋人を山に返す日だから、せめて今夜くらいは酒でごまかすのはよそうと思う。

初恋と血

初恋の人の血を全身に浴びて、一匹の蚊が穏やかな顔で潰れている。

擬態

てっきり子猫だと思って拾ってきたのだが、掌に乗せて差し出した餌を、こいつ、耳の穴で吸い込みやがった。

ばいばい

一番脂の乗った部分のお肉を売って、キツイ匂いの香水を買った。 「美味しそう」と思われずに、好きなあの人と仲良くなりたかったから。

レシピ

この魚は死んだ後も涙を流し続けるので、塩は少なめにしましょう。

花火女

花火女のクミコさんが、火薬の詰まった頭を氷枕にのせて、悔しそうに夏祭りの灯りを眺めている。 「来年こそは打ち上がってやる」と彼女は意気込んでいるが、俺としてはその前にプロポーズするつもりだ。

蛸の絵

漁港に遊びに行った帰り、蛸を丸ごと一匹買い、生きたまま発泡スチロールの箱に詰めてもらった。 家に帰る車中で、一緒に遊びに行った娘が、バッグに入れておいた色鉛筆をなくしたと騒ぎ出したので、途中文房具屋に寄って新しい色鉛筆を買っていった。 家に…

猫の粒

飼いはじめたばかりの猫が逃げてしまった。 猫の粒を水で戻す時に、水の分量を適当に量ってしまったせいだろう。 もったいないことをした。 猫の粒、高かったのに。 「本物に近い」ってやつ買ったから。 本物知らないけど。

副業

彼女の大きなおっぱいに顔を埋めると、左のおっぱいから誰かの話し声がぼそぼそと聞こえてきた。「ごめんね、左も貸しちゃった」「……」「優しそうなおばあちゃんだったから……」 彼女のおっぱいだから俺がどうこう言えることじゃないけど、出来ればこんな副業…

笑う剥製

夫に浮気がバレそうな予感がしてきたので、面倒なことになる前に浮気相手を剥製にして、クローゼットの奥に隠すことにした。 表情やポーズは私が好きに決めていいと彼が言ってくれたので、彼の笑顔が好きだから剥製も笑顔にしてみたのだが、最近そのことをち…

先生のお話

夏休みだからといってだらしない生活をしてはいけませんよ。 神様に捧げられる人以外は夜更かしはやめましょうね。 ではまた休み明けに!

ミッシェル

ベッドの上の俺を優しく力強く締め上げながら、ナースキャップをかぶったその大蛇は、しなやかな尾の先でそっと病室の電気を消した。 ブラインドの隙間から差し込む月の光を受けて、闇の中に美しい牙が浮かんでいる。「ちょっとチクッとしますよ」 大蛇はハ…

急ぎ足

(夜中の2時頃。とある交差点。信号が赤に変わり、そこへ一台の車がやってきて止まる。)(運転手がぼんやり信号を待っているところへ、目の前の歩行者用信号が青に変わり、女の生首がゆっくりと横断歩道を渡っていく。) ……あいつ、ここのところ毎晩見るな…