超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ばかものたち

母の墓参りに行くと、墓石に鼻が生えていた。私たち家族はそれ以降、墓前に供える花の種類に気を付けるようになり、墓参りの時に香水をつけることはなくなった。数か月後、墓参りに行くと、墓石に耳が生えていた。私たち家族はそれ以降、墓参りの時に親戚の…

ノートを見て

僕には友だちがいない。今日も学校が終わり、一人で家に帰り、誰もいない家に荷物を置いて、一人で公園に行き、一人で遊んでいた。ふと足元を見ると、一匹の蟻がいた。踏み潰しちゃおうかな。僕は思った。そして、僕は蟻を踏み潰した。それからしばらくぶら…

夏の散歩

夏、散歩をしていたら、霊柩車の親子を見た。お母さん霊柩車の後ろに、子ども霊柩車が列を作って一所懸命追いかけていて、大変かわいらしい。思わずスマホで写真を撮った。霊柩車たちが向かう方向には、確か火葬場がある。ということは、あの霊柩車たちには…

風にそよいで

我が家の庭には剃刀の木が生えている。毎年夏になると新鮮な剃刀が何本も枝に生り、風にそよいで揺れる。朝の庭に出てその中から一本もぎ取り、ピカピカの刃を朝日にきらめかせながら髭を剃るのが、ここ数年の僕の夏の愉しみだ。しかしある晩夏の夕暮れ時、…

素晴らしい職場

いつものように母の死体を背負って、夜の散歩をしていると、巡回中の警察官に呼び止められた。その死体はどなたですか。母です。警察官は、懐中電灯で母の死体の顔と俺の顔を交互に確かめた。失礼しました、結構です。その警察官も、死体を背負っていた。俺…

秋の日の出来事

ある秋の日、ホームレスは拾った新聞紙を読んでいた時、かつて勤めていた会社で副社長の座を争っていた男が死んだことを知った。葬儀は明日行われることになっていた。ホームレスは公園の住処に帰り、一番綺麗なコンビニ袋を取り出し、ペンでその袋に「御香…