超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

訃報

ニュース番組をぼんやり観ていたら、アナウンサーが「訃報です」と言った後、ニヤニヤ笑うだけでそれから何も言わない。

ボタン

地球に向けられたリモコンの「消音」ボタンが押される。

けん玉

墓参りに行ったら、うちの子の墓前に供えたけん玉で、誰かが遊んだらしいことがわかる。

夕日の道を歩く双子の姉妹の影の間に、三人目の女の子の影がある。

毎朝、今日こそはと思いながらゼラチン粉を持って海へ行くが、海のあまりの大きさに諦めて帰ってくる。

イメージ

何もいないペットショップに、「※イメージ」と書かれた犬の剥製が置かれている。

友だち

友だちのお葬式をしたいのに、電子レンジはお母さんが使ってる。

ぐっ

飛行機が傍を通るたび、入道雲に、ぐっ、と血管が浮く。

蜜柑

さっきまで蜜柑を剥いていた手で母の首を絞めているので、母の首に蜜柑の匂いが移るかもしれない。

綿菓子

その綿菓子屋の店主は、雲コンプレックスに悩まされている。

侵入

留守中に誰かが私の部屋に侵入したらしいが、電灯の紐が短く切られていた以外に、異変は無かった。

死んだ息子が蝿に生まれ変わっていると信じている女が、今夜も私の店に残飯を貰いに来た。

葬送曲

その作曲家が、革命家の兄のために作った葬送曲は、手錠をはめられた状態で弾くことができる。

哺乳瓶

夜中、ゴミ捨て場に哺乳瓶を置いて去った女が、数分後、戻ってきて、鼻をすすりながら、その哺乳瓶を拾い上げる。

お礼

道で虹を拾って交番に届けた後、お礼に何色をもらえるのだろう、とわくわくしている。

耳畑に「私語厳禁」の看板が立っている。

カーテン

風で膨らんだカーテンが、窓を閉めても元の形に戻らない。

生物の死骸にしか咲かないはずの花が、月面にびっしり咲き誇っている。

恋人

菜食主義者の恋人に、肉切り包丁で愛撫されている。

その死亡届には詩を書く欄があったが、私は妻の死について、詩など書くことができない。

ペットショップから静かに出てきたおじさんが、猫耳のアクセサリーを装着し、夜の街に消えていった。

クレーン

夏、入道雲を組み立てるためのクレーンの脚に、蝉の抜け殻がくっついている。

泣きぼくろ

父が亡くなってから、母は泣きぼくろを化粧で隠さなくなった。

治療

辛い思い出をクラゲに変えていく治療の一回目を受けた帰り道、一人でぼんやり海を見ている。

掲示板

誰もいない駅の電光掲示板に、ふいに、「さびしい」という文字が現れ、ゆっくり流れていく。

日曜日

日曜日、観賞用刑務所に収監する囚人を買いに出かける。

人事部

人事部が飼っている蝿が胸にとまった社員が、会社をくびになった。

数式

下水道点検の際に発見された、下水道の内壁に書かれていた数式を、誰も解くことができない。

祝儀

祝儀代わりに俺が夜空に飛ばした流れ星を、結婚するあの子は見ていなかった。

居眠り

理科の授業中、居眠りをする男子に、先生がスポイトを持って近づいていき、彼の耳の穴から何かを吸った。