2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧
さっきのピアノの音は、どうやら死んだ姉が弾いていたらしく、ほら、鍵盤に砂がくっついている。
下水道点検中、暗闇に漂っていたシャボン玉を追いかけていった同僚が、いつまでも帰ってこない。
私一人の地球で、今夜も月とのじゃんけんに負けて、朝が来ない。
その日の朝、モグラたたきのモグラたちは、遺書を書いていた。
金魚すくいの屋台の店先に金魚が一匹吊るされてもがいており、店の親爺がこいつ死なないんだよと笑う。
満月が段ボール箱からはみ出て蓋が閉まらず、やっぱり三日月の夜に引っ越せば良かった、と思う。
独房の時計が一分遅れていることを発見した死刑囚がさめざめと泣いている。
ある冬の日の授業中、ふと外を見たら、雪の重みで折れたらしい木の枝が、地面をのたうち回っている。
正月に神社で、学校の飼育小屋の兎たちの分までおみくじを引いたら、それらがすべて大凶だった。
あの夏祭りの屋台でとった金魚はすっかり大きくなって、今朝も早くからパチンコ屋の行列に並んでいる。
深夜のエレベーターに乗り合わせたおじさんが、首吊り縄を後ろ手に隠していることに気づく。
男が離婚届の裏に書き殴った楽譜を持って、男の愛人はピアノのある部屋へ入っていった。
雪の夜道に、雪だるまが野良猫を食う音が響いている。
夜道で立ち小便をしていたら、いつの間にか僧侶の一団に囲まれて、念仏を唱えられている。
全身に口紅のキスマークがべたべたついている見ず知らずのおじさんに、夜道で、唇の大きさを測られた。
詩人の男が、自身の指を切り落として、代わりに鉛筆を取り付けようとしている。
先生からクラス全員に鏡と油性マジックが配られ、これから名前を呼ばれた人は鏡に×を描いてください、と言われる。
私は医師から青い色の薬を処方されていて、それを青い色が好きだった母の墓前に供えているので、私の病気はいつまで経っても治らない。
コンビニのレジに置かれている募金箱に、お爺さんが女性のヌード写真を入れようとしている。
生前俺に禁煙を勧めていた娘が、幽霊になった後は俺に喫煙を勧めてくる。
女将に教えてもらった通り、露天風呂の底に沈んでいる頭蓋骨を足で撫でたら、湯の温度が上がった。
兄弟で話し合って、こっちのカブトムシは僕が飼うことになったので、目印に脚を一本もいだ。
鼻が痛いので鏡を見たら、小さな宇宙飛行士が私の鼻毛を抜こうとしていた。
ロケットに乗せられ宇宙へ飛び立った木綿豆腐は、百年後、絹ごし豆腐になって地球に戻ってきた。
ハートマークのシールがびっしり貼られている骨壺が、ゴミ捨て場に置かれていたので、中を見ると何も入っていない。
一人暮らしの部屋で、ある朝目覚めると、胸に「壊れ物注意」のシールが貼られている。
半額シールが貼られている弁当が並べられている中に、一つだけ、ドクロマークのシールが貼られているものが混じっている。
今年も誕生日に、私の年齢と同じ数の、鯨の死骸が砂浜に打ち上げられた。
血がついていない吊り革を探しているうちに先頭車両まで来てしまう。
寿司屋の店主はとうとうたまりかねて、「人魚の話禁止」という注意書きを壁に貼った。