2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧
着ぐるみの中、右手で息子の位牌を握りしめているので、遊園地に来た子どもたちを、左手でしか撫でられない。
夏、一匹の蚊に導かれ、献血ルームへと向かう。
新たな作戦を立てるため、独裁者は再び、身重の妻の腹に耳を当てて、メモとペンを構えた。
孤独な男が、郵便局員の仕事を突然辞め、自身のおでこに切手を貼って、毎日ポストの隣に立っている。
お母さんの幻覚を見る薬と、お父さんの幻覚を見る薬は、一緒に飲んじゃいけないよと、その子は医者に言われている。
わたあめ屋の店主の家には、黒枠で囲まれた一枚の雲の写真が飾られている。
天国から電卓の音が聞こえてきて、誰か死んだらしいことがわかる。
その町では詩人だけ核シェルターに入れない。
誰かの悪口を言いそうになった時に口に貼るガムテープを切らしてしまったので、何も考えないようにして、文具店に向かう。
キツツキに生まれ変わった母が自身の墓石をつついてくちばしをボロボロにしている。
涙の買取業者に、亡母との思い出について根掘り葉掘り訊かれる。
影が白くなっていく病にかかった人々のための病棟は、壁や床が黒く塗り潰されている。
死んだ命を生き返らせる手品を思いついた手品師が、ペットの金魚の水槽に洗剤を注ぎ込んでいる。
その日、殺される運命にある一匹の猿のために、神様は、空に浮かぶ雲をバナナの形にした。
高級レストランで厚切りのステーキを平らげた帰り道、母は「口直し」と墓地に寄り、墓前の花を食べ始めた。
娘の命日の前日、その老婆は線香を万引きして捕まった。
今夏もまた、入道雲の出演料が値上がりした。
家事の最中、世界征服することをふと思い立った主婦は、その日からへそくりを貯め始めた。
唐揚げのことを考えていたら流れてきた涙が、レモンの味だった。
依頼は四百字詰め原稿用紙二枚だから、八百匹の蝿を殺さなければならない。
バグの修正のため、天気雨が降り続いている。
明け方の街の空に、カラスたちが操縦するUFOが集まってきて、残飯を吸い込んでいく。
小学校の時、クラスで飼っていた人魚に言われたあの言葉を、最近、残業中に、よく思い出す。
地球が滅びた後、地球の神様の首に銅メダルがかけられた。
夏の暑い日、蝉が「再起動してください」と鳴いているが、なにせとても暑いので、誰も再起動しに行こうとしない。
夏の暑い日、兄の遺言に従って、アイスの当たり棒を、兄の墓前に供える。
あれは夕日そっくりだが、自分の足元の影を見ると、どうも違うようだ。
日食の日、地球が月に嫉妬して、海水温がどんどん上昇していく。
駅の床に「遺書」と書かれた封筒が落ちていて、みんな避けていたので、裏返して「遺書」の字を隠してあげた。
老婆が独りで住んでいるその家の郵便受けには「喪中葉書お断り」と書かれている。