超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

電球と廊下(クライベイビークライ)

廊下の電気がちかちかしているので、ふと見上げると、吊り下げられた電球が、去年死んだ子の目になっていた。埃を被った傘の下から、じっと私の顔を眺めている。ちかちかするのは、どうやらまばたきのせいらしい。 しばらく見つめあっていたが、そのうち何と…

蟹とドレス

川辺の道を歩いていたら、白くて小さい蟹を見つけた。何となく拾い上げてみたら、甲羅は薄く柔らかかった。 掌に乗せて持ち上げて、沈む夕陽に透かしてみると、蟹は短い手足をばたつかせ、川のにおいを撒き散らした。私の家では熱帯魚を飼っているので、連れ…

記憶と掌

夢の中によく喋る小鳥が現れた日は、朝目覚めると決まって、指先が少し消えている。アラームをセットした携帯が止められなかったり、カーテンが閉められなかったり、指先が消えると地味に不便だし、何より放っておくとどんどん消えていってしまうのが困るの…

雨と毒蛙

私の住んでいるアパートの共同トイレには、毒蛙の幽霊が出る。昼夜問わず窓枠に陣取り、怒ったように頬を膨らませている。誰かに踏まれて死んだのか、背中には靴底の跡らしきものが残り、口からはちょっと内臓らしきものが飛び出ている。悪さをするわけでは…

羽と覗き穴

自販機で蝶が売られていた。大きいのから小さいのまで、一つ一つ色とりどりの風船に閉じ込められて、ずらりと並べられている。一番安い、くすんだ貝殻のような色をした蝶を買って、部屋に帰った。 風船を針でつついて蝶を放す。しばらく部屋の中をゆらゆら飛…

桃と骨

「急患です」という叫び声と、インターホンを激しく連打する音で、夜中に叩き起こされた。 慌ててパジャマの上に白衣を羽織り、ねぼけた足で診察室に行くと、いきなり腐ったような甘いにおいが鼻をついた。見ると丸椅子の上に、桃が一つ置かれている。待合室…