超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

掌編集・九

(一) 今日はお爺ちゃんを焼いてくれてありがとう。火葬場のマスコットキャラクターがモニター越しに話しかけてくる。待合室ではスーツのお姉さんが、お父さんとお母さんに麦茶を注いでいる。 おまけの玩具をあげますよ。モニターの下の取り出し口が低く唸…

おばけとハンドクリーム

どうやら、部屋におばけがいるらしい。 夜中にふと目が覚める。 体が熱っぽい。 私はうなされている、しかし私の声ではない。 枕元の湿った畳がわずかに沈み、額が冷たくなる。 柔らかいものが私の頬に触れている。 ハンドクリームの匂いがする。 体は相変わ…

日記

真夜中、部屋のどこかから物音が聞こえてくる。くちゃくちゃと、何かを噛んでいるような音だ。 何だろう。 肉っぽいな。 耳を澄ます。 物音は机の方からしているようだ。 机の前に立ち、抽斗を開ける。物音がよりはっきりと聞こえてくる。 やはり何かを食っ…

花とじょうろ

(晴れた朝。静かな住宅街。広い庭のある美しい家。) (庭の花壇には、白い蕾を付けた大きな花が植えられており、その前で、中学生くらいの娘が、じょうろを片手に地べたに座っている。) (娘はどこか疲れたような笑みを浮かべながら、花に優しく水を与え…

影とアヒル

影が水っぽい。疲れることばかり続いているせいかもしれない。歩くとちゃぽちゃぽ音がする。神経に障る音だ。近所の子どもが面白がって後ろを付いてくる。しかし追い払う気力もない。 ふいに、とぷん、と何かが投げ込まれる音がした。振り返るとさっきの子ど…