2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧
猫語で書かれたアルバイト雑誌に、煮干しのイラストが多い。
葬式の前に配られる、霊魂が見えるようになる目薬を、母はなぜかいつもささない。
電車で眠っていて、目覚めたらいつの間にか靴を脱いでおり、隣にいた知らない老婆が、「これが靴に入ってましたよ」と小石を差し出してくる。
その噂話は、林檎の木の間に瞬く間に広がり、地球上に、赤い林檎が実らなくなった。
次の電車の乗客とは目を合わせないでください、とアナウンスがあった駅に、次の電車がいつまでも来ない。
二回目以降の死を報せる喪中葉書は、再生紙で出来た物を使うのがマナーです。
影の缶詰を買った俺の足元を、レジのおばさんが見ようとしてくる。
指をゴミに出す時、マニキュアを落とさなければならない理由が、何度説明されてもよくわからない。
役場で雪だるまの死亡届が受理され、小さな町に今年も春が来た。
宇宙の暗闇に、チキュウモドキの青い光が点々と輝いている。
てるてる坊主の人権について規定した法案が可決された日、議会場の外では雨が降っていた。
水平線の下で、空に昇るのを恥ずかしがっている新月に、一頭の老いた鯨がウィンクをした。
月が雲に隠れるたびに泣き出す赤ん坊を見て、やっぱりあの人の子だわ、と誇らしく思う。
祖母の葬儀に来たその美しい老婦人は、芳名帳に自身の名と、「うわべだけの友人」と書いた。
猿になる魂と人間になる魂とを分ける内職の休憩時間、おやつにバナナを食べている。
夜、自身の消費期限を知って眠れない肉の塊に、肉屋の奥さんが冷蔵庫の扉越しに子守歌を聞かせている。
明日は母の命日なので、目覚まし時計をセットしなくても目覚められるだろう。
パチンコの景品で月を取ってきた母に、夜の散歩に誘われる。
僕の心臓が入っているマグカップを両手で包んで、温めているが、どんどん冷たくなっていく。
地球滅亡予定時間の一分後にアラームをセットして眠る。
前を走る車の後部座席のぬいぐるみの、首の部分が、ガムテープでぐるぐる巻きにされていることに気づく。
胸を病んでいる少女が作ったその雪だるまは、胸の部分から溶けていった。
夜道で捨て猫を拾った若いお坊さんの禿頭が、暗闇の中で、ぼんやりと発光し始める。
その中年サラリーマンは、私がバイトしているコンビニのイートインコーナーで、毎晩詩を書いている。
冬の公園、誰もいない段ボールハウスの中に、「ぼくはだいじょうぶ」と書かれたメモが落ちている。
インターネットで、優しい人が多い町を調べて、そこへ猫を捨てに行く。
生前いじわるだった順に遺体が並べられた遺体安置室に、とてもいじわるだった人の遺体が入ったので、並べ替えが大変だ。
気になっているお客さんがレジに香典袋を置いたので、「誰が死んだんですか?」と訊いてしまう。
夫が娘の墓石のサイズを測ってきてくれたので、冬が来る前に、墓石に着せるセーターを編む。
新人研修室から、人間の魂に見立てた風船が割れる音が聞こえてくる。