2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧
母の葬儀の最中、何かの気配にそっと顔を上げると、蝶のテレビクルーが、棺桶の中の花の蜜を吸うタレント蝶の姿を撮影していた。
祖母を焼いた火葬場から帰ってきた後、母が「この中には何が入っているでしょーか?」と、骨壺を差し出す。
月の裏側に、たった一人で住んでいるホームレスがいて、夜風の中に煙の臭いがしたら、そいつが火を焚いている時だ。
ぼくを料理するためだけに作られた調理器具の数々に、埃が積もっている。
受話器に耳を齧られる夢から目覚めた直後、知らない番号から着信がある。
一本の指を口の中で噛んでいるはずが、どんどん本数が増えていって、とうとう舌を掴まれる。
仏像には、自動ドアが反応する仏像と反応しない仏像とがあり、うちの寺のはみんな反応しますよ。
「最新の影に更新してください」と昨日から太陽がうるさい。
奥の書庫から一冊の本を手に戻ってきた司書のレインコートに、様々な言語の詩がべたべた張り付いている。
ぼくの風デビューの相手はあの子の家の風鈴だった。
魔法瓶に詰めた今朝の夢は、夜でもまだあたたかく、春の匂いがする。
私は産婦人科の前に置かれていた「ご自由にどうぞ」の赤ん坊のうちの一人だった。
太陽系の星の中で一番嘘が下手なのは地球だそうだ。
火葬されて骨だけになった父が、「もうおならできないな」と寂しそうにカタリと笑った。
銭湯に行ったら、「男」「女」の他に「死者」ののれんがあって、死んだら混浴なのか、と思う。
様子がおかしいカンガルーのポケットの中から仏像が出てくる。
貝殻一つを拾いに行くために、病室を抜け出した。
命という命は全て滅び、神は地球を宝石箱の中に戻した。
太陽がダイエットを始める前の夕暮れの写真がこんなにも綺麗だなんて。
終電の窓の外を、私の死んだ曾祖父が、「みんなぁ、しっかりやれよぉ」と叫びながら、馬で駆け抜けていった。
私、あなたが書いた本の栞になりたいんです、と蝶は言った。
蛍のバッテリーを作ってた工場はね、だいぶ前に潰れたよ、と、真っ暗な池を見つめながら男は言った。
彼のコンサート会場の客席で静かに拍手をする観客全員の耳の穴が、ぼんやり光っている。
どうやら浮気しているらしい妻の歯ブラシに星の欠片がくっついている。
「死体に」と書かれた消臭剤。
月の模様の正体は、昔、神様が月にメモした、誰かん家の電話番号だそうだ。
ロボットと呼ばれている女の手があかぎれだらけだった。
火葬場の煙突に次々と黒猫が飛び込んでいって、それからゆっくり煙が出てきた。
今日は久しぶりに二個目の太陽が出たから、一個目の太陽を日干しする。
何か問題があって学校を辞めた理科の先生が、交通事故現場に供えられている花の匂いを嗅いでいるのを、見かけた。