2014年1月9日（木）～21日（火）にギャラリー・銀座モダンアート様で開催される『zine展4』に出品します。これまで当サイトで発表した作品の一部を小冊子にまとめて販売する予定です。

ミロのヴィーナスは、ダッチワイフとレストランで食事したがらない。 ダッチワイフがパンにバターを塗るとき、それから給仕にチップを渡すとき、熟れて落ちた海底の両腕を思い出すからだ。 ダッチワイフが息を吐くたびに、石鹸の匂いがするのも気にくわない…

夜、ふいに目が覚めた。 妹の夢を見た。幼い頃に死に別れた妹の夢を見た。もう長い間忘れていたのに、突然そんな夢を見た。 引き出しを開け、奥からアルバムを取り出す。幼い頃の妹と私が並んでにこにこ笑っている。写真を手に取り、眺めているうち、急に涙…

夜、いつもの薬を飲んでベッドに入る。傍らにはお母さんがいて、僕が眠るまで編み物をしている。お母さんの横には小さなランプが灯っていて、部屋の白い壁には、僕とお母さんの影がゆったり映っている。 僕はお母さんの指先を見つめている。お母さんの指は細…

夜中、小腹が空いたのでコンビニに行くと、駐車場の隅に小さな舟が停まっていた。ボートのような立派なものではなく、昔話に出てくる漁師が乗っているような木製の舟だ。見ると、今しがた海から上がったばかりといった風で、中には縄や木片、貝の殻なんかが…

動物園で働く姉が、仕事中の事故で死んだ。姉は高校を出てからずっと、象の中の仕事をしていた。 園長の話によると、今日は象の機嫌が悪かったらしい。気づいたときには象も姉もバラバラで、打つ手は何も無かったらしい。 姉が死んだ現場を見せてもらったら…

（夜の病室。カーテンで区切られ、整然と並んだベッドに、それぞれ患者が寝息を立てている。部屋の端で眠っている老いた女。すぐ傍の窓はブラインドが閉じられ、月明かりがわずかに差し込んでいる。老いた女がふと目を覚ます。ゆっくり目を開けると、病室に…

恋人と夜道を歩いていたら、暴漢に首を刺されてしまった。一瞬の出来事で、うまく反応することもできないまま、とにかく痛みと驚きで全身の力が抜け、そのまま道に倒れてしまった。 おそるおそる首に手をやると、ぱっくり開いた傷口から止めどなく血が吹き出…