超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

約束

その老人は、亡き妻との約束で、海へ一個の角砂糖を投げ入れるのを日課としている。

星の光がすべてコンピューターが発する光に置き換わった夜、男は自らの電源を落とした。

悪霊

高架下の壁に書かれた「悪霊が出るぞ」という落書きの「悪」の字に、ある日「×」が上から書き足されている。

真夜中のオフィスの給湯室で、スーツの男が、栄養ドリンクの空き瓶に水道水を注いで、何回もそれを飲んでいる。

切符

駅に着いた死人の男が、自身にたかっている蝿の分まで切符を買うべきかどうか、駅員に尋ねている。

イベント

その動物園では、体の九割が機械の象に、子どもたちが錆止め油を差すイベントを定期的に開催している。

目薬

葬式の前に配られる、霊魂が見えるようになる目薬を、母はなぜかいつもささない。

役場で雪だるまの死亡届が受理され、小さな町に今年も春が来た。

芳名帳

祖母の葬儀に来たその美しい老婦人は、芳名帳に自身の名と、「うわべだけの友人」と書いた。

目覚め

明日は母の命日なので、目覚まし時計をセットしなくても目覚められるだろう。

マグカップ

僕の心臓が入っているマグカップを両手で包んで、温めているが、どんどん冷たくなっていく。

アラーム

地球滅亡予定時間の一分後にアラームをセットして眠る。

胸を病んでいる少女が作ったその雪だるまは、胸の部分から溶けていった。

サラリーマン

その中年サラリーマンは、私がバイトしているコンビニのイートインコーナーで、毎晩詩を書いている。

メモ

冬の公園、誰もいない段ボールハウスの中に、「ぼくはだいじょうぶ」と書かれたメモが落ちている。

夫が娘の墓石のサイズを測ってきてくれたので、冬が来る前に、墓石に着せるセーターを編む。

刑務所の面会室のアクリル板越しに、娘が砂浜で拾った貝殻の音を聞こうとしている。

光る

寂しいとへそが光る体質なので、一人の夜はへそをガムテープで塞いでいる。

弟の幽霊が、ポテトチップスを食べた後の指を舐める私を、睨んでいた。

夕日

孤独な老婆が、沈んでいく夕日に向かって、もう少しゆっくりしていきなさいよ、と声をかけている。

包み紙

娘が好きだったキャンディーの包み紙で娘の遺骨を包むが、尖っている部分があって包み紙を破ってしまう。

孤独

「強」のボタンを押したら強い風を吹かせ始めた扇風機を、孤独な老婆が、「いい子だね~!」と言いながら撫で回している。

伴侶

あの日の理科の授業で作った伴侶と今も一緒にいる人は俺だけだと、同窓会で知った。

ので

寂しくなるのでここに赤ん坊を捨てないでください。

日時計

母の位牌はとりあえず日時計として使っているが、父の位牌の使い途が考えつかない。

ペン

蝶に生まれ変わったが、やっぱり私は詩を書きたいので、ペンを持ち上げようとするが、重すぎる。

缶ビール

泥棒しに入った家の冷蔵庫に「泥棒へ」と書かれた缶ビールが冷えていた。

オフィス街のビルとビルの間に、サラリーマンの涙で満たされた泉を見つけた。

点滅

空気清浄機の注意ランプが点滅しているので、ため息を控える。

お風呂

冬の夜、私が作った雪だるまに、祖母が「お風呂が沸きましたよ」と話しかけていた。