トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

あこがれ

「これね、全部、死神のサイン」、そう言ってにこにこ笑いながら、死ねない婆さんは色紙の束を取り出した。

他人に親切をした日は必ず、家に帰ると、「本当の君」と裏に書かれたあの時の写真が、郵便受け一杯に詰められている。

青い雨

明日は全国各地で青い雨が降るため、水たまりを覗くと亡くなった人たちが映り込んでいますので、思わず立ち止まって遅刻などしないようご注意ください。

彼とのデートの思い出を話していただけなのに、母は「気味の悪いこと言ってないで、早くお祓いに行きなさい」と取り合ってくれない。

処方

しばらくじっと考え込んだ後、医者は私に一人の少女を処方した。

写真

また今朝も目覚めれば、スマホのメモリーに、俺の葬式を写した写真がきっかり百枚増えている。

うろこ

図書館で借りようと思った本に蛇のうろこのような物が挟まっていたので、司書のお姉さんに尋ねると、「その本は今かみさまが読んでいるようですのでお貸しできません」と、ペコリ、頭を下げられた。

バナナ

天井から吊られたバナナを取る実験に付き合わされた時のことを、梁から首を吊った主人を見上げながら、猿はぼんやりと思い出している。

田んぼ

この国で唯一の幻の米を作ると言われる爺さんが、今夜も月の映る田んぼの水に、自分の涙を一滴ずつ垂らして回る、死んだ婆さんの写真片手に。

理科

授業をしていたら、2組が使っている理科室から赤ん坊の産声が聞こえてきたが、2組の理科のテスト成績を考えると、果たしてどれくらい生きられるか。

猫という生き物

私の遺書を横からひょいと覗き込んだ後、飼い猫は苦笑して静かに部屋から出て行った。

ぼくら

夜の花の香りの中で、何度も何度も話し合った結果ぼくらは、ぼくらが出会った誘蛾灯に身を投げて死ぬことにした。

泡立つ波の下に、一瞬袈裟が煌めいたので、今日の漁は中止になった。

おばあちゃんの魂、つぎはぎだらけだったね。

月がさらさらと砕けていくように見えたらそれは月に擬態する蝶の群れが飛び去っていくところで、夜明けが近いことを示す証拠である。

私の国は、司会者の合図とともに滅ぼされた。

初めて人を好きになった日の夜、体中の穴という穴から白い蛇が出ていく夢を見て、はっと目覚めると、私の体は人間の女になっていた。

祖母と祖父

祖母がコントローラーの受け取りを拒んだため、祖父の遺体からアンテナが取り外された。

おばあちゃん

生身のおばあちゃんは亡くなっちゃったけど、電子版のおばあちゃんはネットワークの中でまだ生きていて、ログインするたびにぼくらにお小遣いもくれる。

鏡文字

何も映っていない鏡の前でうなだれる老婆の手には、鏡文字で名前が書かれた香典袋が。

クローバー

あのね、俺をね、土に埋めっと、へそから、四つ葉のクローバーがね、生えてくっからさ、それ採っていいから、お嬢ちゃん、俺ね、死ぬから、どっか綺麗なとこに、埋めてくれねぇかな?

包丁

それは「菜切り包丁」の間違いなどではなく、確かに「名切り包丁」で、私は今も、あの日狂った母に切り落とされた下の名の行方を、探し続けている。

生命線

俺がもうちょっと生命線を長く彫り込んでやってりゃあ、お前も薪にならずに済んだかもしれねえな。

露天風呂

娘がいつまでも露天風呂から戻ってこないので、心配になって様子を見に行くと、露天風呂に娘の姿はなく、なみなみと湛えられた湯に満月が二つ映っている。

パスワード

死ぬ時に教えてもらったパスワードで天国の扉が開かず、そこで初めて、自分は地獄に落ちたのだと知る。

十歳のお誕生日会の時、既に人魂になっていた兄がろうそくに火を点けて回ってくれたことが、兄との一番の思い出です。

肩車

「パパー。肩車してー。ねー。パパー」「しーっ。後でな」「何でー。今今今ー!」「静かにしてなさい、お前の葬式なんだから」

私の母は、客席を埋め尽くす火星人たちに見つめられながら、舞台の上で、私を出産したそうだ。

処方箋

手渡された処方箋に「針 千本」と書かれているのを見て思わずはっと顔を上げると、その老婦人は「約束を、破ってしまった、ものですから」と、少しはにかんでつぶやいた。

風景(小指)

近所に住む砂糖菓子のお姉さんが、ブラックコーヒーが飲めない私のために折ってくれた小指が、渦の中にゆっくり溶けていく。