超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ベッドの上で抱き合ったまま砂になってしまった両親の中から、小さな熊手で蟹を見つけて妹にする。

弱い棋士だった父が身を投げた海から次々と、腹の中に将棋の駒が入っている魚が獲れる。

遊園地

雲の上に作られた遊園地に放火するために、スラム街の子どもたちが、腐った木や動物の皮を集めて飛行機を作ろうとしている。

物干し竿

「物干し竿」という過去の時代の遺物を博物館で見ながら、太陽が腐る前の世界に思いを馳せる。

父母の死体から生えてきた茸を兄妹で食べて暮らしているうち、兄は父に、妹は母に似てきて、ある日、お互いに対する恋愛感情を抱いていることに気づく。

浴衣

夏祭りに、彼女が着てきた浴衣の模様をよく見ると、彼女の死んだ妹や弟たちの名前がびっしり織り込まれている。

日記

海の底に沈んできた、どうやら自殺したらしい少女の日記を、チョウチンアンコウの光の下で、少しずつ読み進める。

SNS

死者しか利用できないSNSで、彼女は毎日、ぼくの家の合鍵の写真をアップしているそうだ。

一滴

どんなにしっかり栓を閉めていても、その蛇口は、私が死にたい、って考えると、水を一滴、ぽちょんと落とす。

私以外誰もいなくなった街に、雪に混じって線香の灰が降る。

メモ

首吊り自殺をした兄の遺品のスマホのメモアプリに、 ク・・・ ビ・・・ビール ツ・・・ リ・・・ というメモが残されていた。

戦争の原因となった一輪の花が、国境の境目で、毒ガスを浴びてゆっくりと立ち枯れていく。

白菜

赤ん坊を抱く練習をするために買った白菜のレシートを、ずっと財布に入れたまま、孤独死しようとしている。

すべての言語の「私を殺してください」という言葉を覚えた男が、旅支度を始めた。

柔らかい口

幼い頃かわいがっていたクマのぬいぐるみの柔らかい口がもぐもぐ動いて、妊娠した私の腹を食い破ろうとしている。

文字の森

東にある文字の森ではね、もう「愛」の字は捕まえられないよ。全滅したんだ。ある女の子のラブレターが原因でね。

背中

母の葬儀の最中、ずっと泣いていた姉が急に泣き止んだかと思ったら、喪服の背中が裂けて、大きな蝶の羽が現れた。

骨壺

全人類の骨を詰めた骨壺を抱え、巨人は太陽の向こうへ去っていった。

雪だるま

これが百万年雪が降り続けている町の雪だるまだよ。

海の匂い

海の匂いが近づくにつれ、道端に増えていく、尾びれのついた地蔵たちを、父の運転する車の後部座席からぼんやり眺めつつ、腿に生えてきたうろこを指でいじっている。

かつて王子の尻尾を切り落とした斧を、王になった彼の首を刎ねる剣に鍛えなおす。

古新聞

そのホームレスは古新聞を拾うたび、交番にペンを借りに行く。これから何度も読み返すその新聞の、悲しいことが書かれている部分を塗り潰すのだ。

背中

背中が痒いので妻に掻いてもらっている時、妻が先日死んだことを思い出す。「どうしたの?」「何でもない」

ボトルシップ

密封していたはずのボトルシップの甲板の上で、どこから入ったのか、蝿が一匹、仰向けに倒れており、弱々しい声で、蝿の国の国歌を歌っている。

君はいいよな

君はいいよな。神様が金がある時に作った人間だから。

病院の廊下の長椅子に、一匹の蝿が腰かけて、雑誌を読みながら、私の祖父が死ぬのを待っている。

私たちを捨てた母が月に植えた花が、夜空から匂ってくるのを、病死した妹の死体と手をつなぎながら、嗅いでいる。

三日月

夜中、開けていた窓から、三日月が私の布団に入ってきて、私の体をまさぐっているうちに、先端の尖ったところでシーツを破いた。

ぼくの家で飼ってる蝉のところへ、今日、慰問の歌手が来て、夏の歌を歌っていった。

兎を抱えた老女がエレベーターに乗ってきて、「月、にお願いします」とエレベーターガールに告げると、エレベーターガールはお辞儀して月行きのボタンを押し、扉が閉まり、そうして長い長い夜が始まった。