超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

無題

noteとXもやってます。リンクからどうぞ。

古紙

前を走る古紙回収の軽トラの荷台から、「遺書」と書かれた封筒が落ちた。

僕の初めての放火の記念にお母さんが作ってくれたケーキの、炎を表現しているイチゴが美味しい。

地球

地球があった空間に今は、幼稚園のみんなで描いた地球の絵が浮かんでいる。

砂糖

そのご婦人は、喫茶店で、膝の上の骨壷にブラックコーヒーを一滴垂らした後、くすくす笑って、そのコーヒーに砂糖を入れた。

笑顔

母の墓石には、墓参りに来た人の笑顔を感知してシャッターを切るカメラが埋め込まれている。

火葬場のゲームコーナーにある格闘ゲームは、炎を操るキャラクターが使えない。

不幸せに効く薬が売り切れたのを見て、薬局の店主は幸せな気持ちになった。

トンボ

墓石にとまっていたトンボに向かって指を回していた少年が、トンボが飛び去った後も一点を見つめて指を回し続けている。

お色直し

千回目のお色直しの後、花嫁は自身の死体を背負って現れた。

魚の骨の収集家のおじさんが、いつも骨を貰いに行く寿司屋の奥さんを好きになってしまい、ある日そのおじさんは、一番綺麗な骨だけを持って失踪した。

追う

離婚届をくわえて走り回る飼い犬を、妻だけが追いかけていた。

香典

貧乏な家の子が香典代わりに持ってきた蛍が、娘の遺体の胸の上で光っている。

大げんか

家電量販店の性格矯正機売り場の前で、年老いた母親と中年の息子が大げんかしている。

やかん

電車に、湯気を噴き出すやかんを持ったおじさんが入ってきて、痴漢しそうな人は手を出してください、と叫ぶ。

場所取り

あのおじさんはいつも、首吊り縄でパチンコの場所取りをしている。

小鳥

声を失った小鳥が、鳥かごの中から、主人の机の上にある羽根ペンをじっと見つめている。

ただいま

帰宅して「ただいま」と言ったが反応が無いので、骨壷の蓋を開けて中にもう一度「ただいま」と言う。

立入禁止

空港に張られた「立入禁止」のロープの向こうの地面で、飛行機雲がのたうち回っている。

母の遺書に「蝶に生まれ変わります」と書かれていたので、もう庭に花は植えない。

誘蛾灯

誘蛾灯の掃除をしていたら、蛾たちの死骸の中に一つ、折り紙で作られた蝶が入っていた。

市場

市場の隅で、赤ん坊と蝶の標本が交換される。

待ち合わせ

いつもデートの待ち合わせに使っている火葬場で、今日は誰も焼かれていないのを見て、今日は彼との間に何かあるかもしれない、と何となく思う。

速報

深夜のテレビにふいに、「今すぐ眠ってください」というニュース速報が流れる。

三日月

三日月が大好きな娘さんのために、月を削るため、親方はブルドーザーに乗って長い旅に出た。

雨が降り続く中、軒下のてるてる坊主の横に、千羽鶴が吊されている。

粘土

粘土のパッケージに、粘土で出来た赤ん坊を抱いて笑う女性の写真が載っている。

スーツを着た男たちが、公園で蟻を潰して、砂糖会社の株価を操作しようとしている。

夏祭り

その少年は毎年、町内の夏祭りの時期に、おみこしが刑務所の傍を通るか確認しに来る。

その刑務所の軒下の鳥の巣は、ある献身的な女囚の髪の毛で作られている。