超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

第一号

ある朝、登校すると、クラスメートの女の子が教室で一人、自身の長い尻尾を首吊り縄の形に編んでいて、僕の方を見向きもせずに、「第一号になる?」と訊いてくる。

粉糖

刃に粉糖が付いた斧を抱えて森から帰ってきた父が、おやつを食べる私を見て、苦笑いしている。

飛び立つ

我が社が開発した、精神安定剤入りのチョウが、世界中のクモの巣やカマキリの住処へと飛び立っていく。

グラビア

コンビニで週刊誌を立ち読みしていたら、水着のグラビアアイドルが、いつ撮ったのだろう、僕の家の仏壇に手を合わせている写真が載っていた。

おにぎり

お母さんが作ったおにぎりの中に入ってた乾電池を取り出し、ラジカセに入れて、「お母さん大好き」という言葉をテープに録音する。

イベント

「こないだの、蟻を焼くイベントが、楽しかったのよ」と、老人ホームで暮らす祖母が、虫眼鏡を磨きながら、笑った。

墓地

電車に乗っている時、電車が墓地の横を通りすぎるたび、「墓地だね」と車内アナウンスが流れる。

月を作る工場に勤めていた外国人労働者たちが、パトカーの中から夜空を見上げている。

床屋で髪を洗ってもらっている時、うつむいた顔の下を流れるお湯が赤いことに気づき、悲鳴を漏らすと、店主が「まだまだ赤くなるよ」と耳元に囁いてくる。

ペンだこ

俺の魂を天に運びながら、「面白い死に方だね」と話しかけてきた天使の指にペンだこを見つけ、何か書かれるんじゃないかと心配になる。

寂しくて眠れないでいたら、独房の外で、看守が蛙の鳴き真似をしてくれて、眠れた。

手鏡

交差点の真ん中に手鏡が落ちていて、道行く人々がちらりと目をやってそのまま去っていく中、一人のホームレスが、その鏡を覗いて「俺映ってねえぞ」と怒鳴り始める。

注意書き

女の手の缶詰の「(あかぎれあり)」の注意書きを見逃していたので、家に帰って開けてみて、さびしい気持ちになった。

お尻に蛍光塗料を塗りたくった男が、殺虫剤を片手に、蛍の群れに突っ込んでいく。

戦い

怪獣のフィギュアと、お母さんの位牌を戦わせて遊んでいたら、いつの間にか両手が真っ赤に染まっている。

使える

病院の裏でしゃがみこみ泣いている僕に、清掃員のお婆さんが、「ほれ、まだ使えるの、あっかもしんねぇからよぉ」と言って、心臓が詰まったゴミ袋の中をガサガサやり出した。

悟り

家電量販店の店員に勧められて、悟りを開いたモデルの扇風機を買ったが、風鈴を一度、ちりん、と鳴らした風を吹かせた後、一切動かなくなった。

地元の図書館のトイレには、トイレットペーパーの代わりに父が書いた詩集が置かれていて、父は毎日その図書館に通っている。

ステージ

養豚場の豚舎に設けられた特設ステージで、牛の格好をした母が踊っている。

火傷

あの墓地のキッズコーナーには、触って遊べる誰かの遺骨が置かれているが、うちの息子がそれを触ったら手を火傷したので、墓地の管理人に文句を言わねばならない。

三分

地球が滅亡したというニュースを観ていたら、カップラーメンの三分をとっくに過ぎて麺がのびてしまい、そのまずいラーメンを食べながら、やっぱり地球に関わるとろくなことにならねぇな、と思う。

観光地

観光地の土産物屋に「思い出消し」と書かれた液体と注射器が売られている。

広告

ATMの前でぼんやり、紙幣が出てくるのを待っていたら、画面に一瞬だけ、赤ん坊が現金に変化していく何かの広告動画が流れた。

薔薇

私がバイトしている花屋に、品のいいお婆さんが入ってきて、店内の匂いを嗅ぎ、「薔薇が殺し合ってますね」と言うので、薔薇を見ると確かに殺し合っていて、お婆さんは「生き残ったのをいただくわ」と笑った。

新しいお母さんとの関係に悩んでいるある園児が、職員室の電話の受話器の穴に、粘土を詰めていた。

薬指

大女が洗車機に左手の薬指を突っ込んで洗っていたので、あいつ、結婚でもするのかもしれない。

数式

その数学者は、生涯をかけて導き出した数式を、ある日、電柱の下の方に、水溶性のインクで書き込み、飼い犬にそこでおしっこをするよう命じた。

飴を舐めていたら、突然口の中に熱いような違和感を覚え、慌てて飴を吐き出すと、飴が仏像の形に削れており、そこへ、ぼたっ、と、舌がちぎれて落ちる。

念仏

飼い猫が毎夜、月を見上げながら唱える念仏には、鼠の鳴き声を模したような箇所がある。

ピエロ

遊園地の駐車場に停まっている霊柩車の後部座席を、風船を持ったピエロがノックしている。