超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ワニと果実

職場の旅行で何か森のような場所へ行ったとき、川で遊んでいた同僚の女の子が、そこにいたワニに飲み込まれてしまった。 上司と話し合った結果、もう助からないだろうと話がまとまり、ワニごと火葬することにした。 そうなるとこのワニが憎くて仕方ない。近…

月と針

図書館の奥で、古い時代の月の写真を見つけた。あまりに無防備で驚いた。 その日の夜、久しぶりに窓を開けて月を眺めた。至るところに注射器が刺さっている。私の知っている月だ。 図書館で見た写真が信じられない。試しに、空想の中で注射器を抜いてみたが…

雲と林檎

授業中、教室の窓からふと夏空を見上げると、まっすぐな飛行機雲に、知らない学校の制服を着た女の子が腰かけていた。 膝の上に載せたガラス皿から林檎をつまみながら、ぼんやりと遠くを眺めていた。 昼休み、学校の屋上に行き、他のみんなに気づかれないよ…

うなじの棘とありさの蛇

ありさと風呂に入っているとき、うなじに大きな大きな棘が刺さっているのを見つけたので、これは何かと尋ねたら、ありさは「栞」だと答えた。 「抜いてもいい」と言うので抜いてみると、棘より一回り小さな穴が開いていて、奥行きは深いのか浅いのかいまいち…

指とピストル

窓を開け放していたら、どこからか風船にくくりつけられて、女の部品が送られてきた。最初は手の指だけだったが、十本揃ってからは、へそや瞳や赤い頬も届いた。 しかし肝心の組み立て方がわからない。かといってそこらに放っておくのも何なので、送られてき…

水と自惚れ

部屋の中には、小さな水槽と、猫の寝床と、あとは机や本棚や、そういう簡素な家具が寂しく置かれている。家人は若い痩せた女で、飼い猫は丸々と肥った灰色の猫である。 水槽では尾のひらひらした割合に立派な魚が何匹も泳いでいて、底には白い砂が敷き詰めら…

兎雲と雨

今日は、新しいお母さんがやってくる日なのだが、朝から待っているのに、足音も聞こえてこない。もう待ちくたびれた。スケッチブックに新しいお母さんの顔をいくつも描いてみる。どれもしっくり来ない。 台所の方から、換気扇が回る音が聞こえてくる。お父さ…

泡と渦

風呂場のガラス扉を開けると、上から下まで石鹸の泡にすっぽり包まれた誰かが突っ立っていた。少し驚いたが、それより急いでシャワーを浴びたかったので、構っている暇もなかった。 それでひとまずシャワーを全開にして、そいつの泡を流すと、泡に包まれた本…