2024-01-01から1年間の記事一覧
道を歩いていたらぬいぐるみを踏みそうになり、思わずよけると、後ろから「踏んでよ」と言われ、振り返ると裸足の少女が立っている。
鏡で自分の顔を見るとき、必ず私のまぶたは痙攣する。
その巨鳥の巣は飛行機雲が集まって出来ている。
死んで天国に行ったら、入口の番号札の機械が壊れていた。
墓地で一人、墓石を相手におままごとをしている少女が、墓石に泥団子を塗りたくっている。
玄関わきに月光除けの傘が立てかけられているアパートの一室から、ある夜、一人の女が出てくる。
毎日救急車のサイレンの音を口真似しながら町内を走り回っていたおじさんが、ある日救急車で運ばれていった。
数年前、自身の母親の遺影を持って美容整形外科を訪れた女性が、今度は娘の遺影を持って再び訪れた。
良いことをしたくなった青年が、父親が造っている偽札を一枚盗み、コンビニの募金箱に入れた。
親戚たちの羽音も遠ざかり、墓地には羽のない私だけが残された。
悲しみの標準値を決める役人が、自身の母親の葬儀会場で、参列者に何かを訊いて回っている。
夜空を見上げると、昨夜まで月があった場所に、札束が浮いている。
動物園のシマウマの飼育員が、ホームセンターで、思い詰めた顔で白いペンキを見つめている。
遺書雑誌の袋とじのグラビアで、綺麗な女性アイドルが遺書を踏んづけていた。
虹で遊んでいた子どもたちの爪がどす黒く汚れている。
夏、家の前の道の上でびちびち跳ねている金魚を見ながら、雨降れ、と心の中で祈っている。
人類が滅亡した後の荒野で、信号機たちが、自分たちの本当の色を灯し始める。
ベビーカーに一個のツナ缶を載せた女と、一匹のマグロが、水族館の水槽越しに見つめ合っている。
担架に載せられた墓石が救急車に運び込まれる。
少年のフーセンガムが月と同じ大きさまで膨らんだ時、月からの使者が針を持って現れた。
高名な書道家が、自身が書いた「蚊」という文字の前で、恍惚の表情を浮かべながら全身を掻きむしっている。
深夜の独房で初めての友人が出来た。
深夜のファミレスのドリンクバーの前に幼い少年がいて、コーラを選んだ人の後をとことこついていく。
疲れた顔の男が、深夜、「酒・たばこ・小鳥」の看板があるコンビニへ入っていった。
夜中、母の位牌を撫でていたら、アパートの隣人に壁を叩かれた。
理科の解剖の授業用に代々飼育されている蛙の中から、予め体に切り取り線が入っている個体が生まれる。
あの子が死んで何年も経つので、あの子の墓前に供えるお薬も、そろそろ糖衣錠じゃなくてもいいだろう。
今朝はお母さんの体調が悪かったので、学校の昼休みに開けた弁当箱には、詩集が入っているだけだった。
動物園の飼育員だった父の位牌を、猿たちに玩具として与えたが、猿たちは手を合わせるばかりで全然遊ばない。
お父さんの浮気相手を描く時は色々な色のクレヨンを使うから楽しい、と少女は思っている。