2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧
夜道、前を歩いているスーツのおじさんが、「きんぎょのおはか」と書かれたアイスの棒を道に落とした。
一年前、算盤を産んだ女が、またこの産婦人科に運ばれてきて、今回は電卓を産んだ。
顕微鏡で覗いたシャーレの中の宇宙飛行士が、私を拝んでいるのを見て、また実験が失敗してしまったとため息をつく。
空からタイムカードを打刻する音が聞こえてきたので、この雨ももうじき止むだろう。
UFOと胃カメラの追いかけっこを画面越しに眺めながら、腹部に広がるかつてない快感に気絶しそうになっている。
今夜も血で汚れた服を洗濯機に入れ、天使のマークが描かれたボタンを押す。
夏の夜、病室で眠る病人全員の心電図の音が重なって、祭り囃子を奏で始める。
コンビニのイートインスペースで雑草を食っていた小学生がテーブルにこぼした土を、外国人のアルバイトが拭いている。
母の命日が近いので、冷蔵庫に母の位牌を入れておいたが、それでも位牌は熱くなっていた。
底に一個の脳味噌が沈んでいる公園の池に哲学書を投げ込んだら、次の日、その池にいた全ての魚が死んでしまった。
毎日石ころを蹴りながら一人で下校している小学生の、その石ころをよく見ると、あちこちがボンドで補修されている。
瓶に「四人」と書かれたラベルが貼られている酒に、一本の首吊り縄が漬かっている。
止まない雨が降る中を、スピーカーから「てるてる坊主が不足しています」というアナウンスを流す軽トラが、ゆっくり走っている。
雨上がり、美しい水たまりを覗くと、死んだ姉が映っていて、その姉の鼻の辺りをアメンボがすーっと通り過ぎ、姉は音のないくしゃみをした。
毛生え薬で満たされたプールで、床屋の店主の溺死体が発見された。
ドラッグストアのムダ毛処理用品の棚に、ダイナマイトが置かれていた。
首をがんばって伸ばしてあの世をちょっと覗いてきたキリンがもちゃもちゃしている口に、光る何かがくっついている。
来週嘘をつくので役所で申請書を貰ってきたが、よく見ると「相手」の欄に「患者」の選択肢が無い。
宇宙服を着た兄と潜水服を着た弟が、母の骨壷を挟んでじゃんけんをしている。
俺が送ったメールが深夜ラジオで読まれたのを聴くと、お袋の幽霊はすーっと消えていった。
害虫駆除業者の友人が、今月も私のため息を採取しに来た。
無人駅で電車を待っていたら、いつの間にか顔の無い駅員さんが傍にいて「次の電車が来るまでどうぞ」と言って注射器を差し出してきた。
夜、母の財布から金を抜いて自販機へ行くが、浮気を許してくれそうな男は売り切れている。
母の墓参りに行ったが、墓石の「弔」ボタンに「故障中」の貼り紙がされていて、呆然と立ち尽くしてしまった。
私の家に入った空き巣犯が心療内科の診察券を落としていった。
社会科見学で訪れた墓地で、自分の家族の墓石が無い子が、手持ち無沙汰に、墓前の花の匂いを嗅いだりしている。
看板に「レギュラー」「ハイオク」「軽油」「赤ちゃん」と書かれたガソリンスタンドに、空のベビーカーを押した女が入っていく。
私と話をしながら、脳味噌の形のタブレット菓子を食べ続けている友人の話の内容が、だんだん理解できなくなってくる。
ものすごい強風が吹き続けているのに、祖母を焼いている火葬場から立ち昇る煙が、一切揺れていない。
もうすぐ閉鎖する雲工場の壁に、黒枠で囲まれた入道雲の写真が一枚、飾られている。