超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

心臓とガラス

目を閉じていても眠くならないので、目を開けると、ガラスの向こうに青空があって、その下で、係のおじさんが面倒くさそうに、俺の心臓を動かしているのが見える。 ほかに見えるのは、ガラスに貼られた撮影禁止のステッカー、氷が溶けて汗をかいているグラス…

雨に溶ける人

雨の夜、歩道橋の上に、雨に溶ける人が立っていた。 雨に溶ける人は、傘もささずに、車列のライトをぼーっと眺めていた。 私はいつもより静かに歩道橋の階段をのぼり、雨に溶ける人を遠くから眺めていた。 雨に溶ける人は、少しずつ雨に溶けながら、外国の歌…

ぶんぶん

近所に廃墟になった家があり、居間だったらしき場所に割れた電球がぶら下がっている。 その割れた電球の周りを、毎晩黒い虫がぶんぶんと飛び回っているのだが、たぶんあれは虫ではないし、羽音でもない。

舟とスプーン

椅子に座る私の目の前に、氷水の入ったコップがあり、水面にひしめく氷の隙間には、小さな舟が浮かんでいる。 小さな舟には人がいて、寝転んで空を眺めている。 その人は誰でもいい。 じゃあ私でいい。 椅子に座る私はストローを取り出す。先っぽがスプーン…