超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

カブトムシ

カブトムシを捕まえた。虫かごの中に、カブトムシ用ゼリーと、カブトムシ用精神安定剤を入れて飼う。

まず

息苦しさで目が覚める。母が私の首を絞めている。「な、何……?」「あ……間違えた」母はすっと立ち上がり、「まずお父さんだ……」

占い

朝のテレビの血の色占いで金色が一位だった。姉の部屋に行く。「金色、一位だって」「……」足元に転がる、金色に染まった剃刀。

コンビニ

コンビニでバイトをしている。こないだ深夜二時に、子ども用の心臓を買いに来た人がいた。何があったのだろう。

一週間くらい

一週間くらい、ポジティブなこと考えないでくださいね。じゃ、お大事に。

教えて

叔父さんに「算数教えて」と頼んだら、叔父さんは頭に刺さった無数の釘の中から一本抜き、「さぁ、吸え!穴、吸え!」

三日月

あ、間違って三日月にしちゃった……まぁ、いいか……地球……誰もいないし……。

地蔵

「あの地蔵ヤバくね?」などと話しながら、女子高生の集団が、お互いの腕や太ももの傷を見せあっている。

「春になったらこの木で」と決めていた桜の木に、春、首を吊りに行くと、その木の下で花見をしているおじさんたちがいたので、彼らにおっぱいを見せて帰ってきた。

知る

センサーで開く便器の蓋がいつまで経っても開かないのを見て、初めて自分が死んだことを知る。

エコーで見たお腹の中の我が子の口が「ドアホ」と動いている。

調理実習の時、同じ班の肉持ってくる係のやつが、その朝弟が死んで、学校を休んだせいで、うちの班だけ肉なしだった。

眠れない

今夜は眠れないので、父の部屋に、一枚しかない母の写真を借りに行く。「よだれつけんなよ」「うん」

ビチビチ

さっきおしっこを採った尿検査用の紙コップの中で、何かがビチビチ跳ねている。

アゲハチョウ

いつも我が家の庭の花の蜜を吸いに来る、背中にアゲハチョウの羽を付けたおじさんが、今日、花壇の傍に、心療内科の診察券を落としていった。

電車内に入ってきた蝶を逃がすために窓を開けようとしているが力が足りなくて開けられないでいる老婆と、全員寝たふりをしている他の乗客。

どちらまで

タクシーに乗る。「どちらまで」「最近人が死んだ所」「じゃぁ、あそこかな」タクシーが走り出す。

いのち

あしたは学校でいのちについて学ぶので、まずは虫を殺してきてください、とのことだ。

他人の雲から降る雨に打たれると、何だかすごくむかつく。子どもっぽい私。

泣きまね

明日は祖父の命日。だから明日は家族全員泣きまねをして過ごさなければならない。冷蔵庫には、それぞれの名前が書かれた目薬が冷えている。

私の下駄箱に、指が一本。私が「綺麗だね」と言った、あの子の指だ。タンポポの茎で指輪を作って指にはめ、あの子の下駄箱に返す。

いいところ

二十数年前、ぼくが自分で書いた「ぼくのいいところリスト」からまた一つ、ぼくのいいところを、泣きながら二重線で消す。

妊婦

会社の後輩と外回りをしている時、妊婦が歩いているのを見るたび後輩が、「ぼくの子じゃないかちょっと訊いてきます」と駆け出す。

心音

真夜中の病室。眠る患者の心音を聴診器で聴きながら、医者がちびちびと酒を呑んでいる。

金魚

お嬢ちゃんのお友だちでね、死んじゃった子はいないかな?うちの屋台の金魚はね、みんな、死んじゃった子たちの生まれ変わりなんだよ。すくってあげるといいよ。おじちゃんはね、どれがどの子かわかるんだ。例えばね……。

あの日、父が身重の母の腹を蹴った時、父の靴下に穴が開いているのを見つけたのが、すごく印象に残っている。

不味そう

お前、すげー不味そうな星に住んでるな。

おかえりなさい

おかえりなさい。戸棚にあなたの赤ちゃんが入っています。

汚した

雨上がりの道で、両手を虹で汚した子どもたちとすれ違った。……大人になった今では、近づき方さえわからない。

響く

総合病院内のコンビニに響く、子どもの「ママー、パパ死んだー」の声。