超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

お達し

明日の夕飯時に王女が玉ねぎを剥くので、国民全員それに合わせて涙を流すように、とのお達しが来た。

分ける

葬儀後に母の魂を分けるので、皆さん計量スプーンを忘れずに。

小石

電車で眠っていて、目覚めたらいつの間にか靴を脱いでおり、隣にいた知らない老婆が、「これが靴に入ってましたよ」と小石を差し出してくる。

アナウンス

次の電車の乗客とは目を合わせないでください、とアナウンスがあった駅に、次の電車がいつまでも来ない。

マナー

二回目以降の死を報せる喪中葉書は、再生紙で出来た物を使うのがマナーです。

説明

指をゴミに出す時、マニキュアを落とさなければならない理由が、何度説明されてもよくわからない。

赤ん坊

月が雲に隠れるたびに泣き出す赤ん坊を見て、やっぱりあの人の子だわ、と誇らしく思う。

眠れない

夜、自身の消費期限を知って眠れない肉の塊に、肉屋の奥さんが冷蔵庫の扉越しに子守歌を聞かせている。

ぬいぐるみ

前を走る車の後部座席のぬいぐるみの、首の部分が、ガムテープでぐるぐる巻きにされていることに気づく。

インターネット

インターネットで、優しい人が多い町を調べて、そこへ猫を捨てに行く。

生前いじわるだった順に遺体が並べられた遺体安置室に、とてもいじわるだった人の遺体が入ったので、並べ替えが大変だ。

気になっているお客さんがレジに香典袋を置いたので、「誰が死んだんですか?」と訊いてしまう。

ボタン

血のついた服を洗濯機に入れる際は、「ごめんね」ボタンを押してください。

近所の焼き肉屋に、自分のことを豚だと信じていた牛の肉が入ったらしい。

撤去

前かごに「遺書」と書かれた封筒が入っていた放置自転車が撤去され、封筒だけがそこに残った。

母の顔を見てやってください、と、葬儀の参列者に、虫眼鏡を配る。

たて

墓参りに行ったら、墓地の隅にある墓石に「死にたて」の紙が貼られていた。

あんよ

夜道に、油性ペンで「あんよ」と書かれた人形の腕が落ちている。

許す

彼の家に彼の浮気相手が落としていく髪の毛は、私が飼っている虫の餌になるから、彼の浮気を許している。

貧乏ゆすり

火葬場の煙突のてっぺんに座って貧乏ゆすりをしている人がいて、小さな黒い物がひらひらと落ちてくる。

着替え

夜中の墓地で服を着替えていた女が、突然、目の前の墓石にビンタした。

雨音

雨音の効果音が入ったテープを一日中流し続けている隣人にうるさいと文句を言おうと、アパートのドアを開けた瞬間、外で雨が降っていることに気づく。

誤り

谷底に降りると、地面に、「ヤマオリ」と書かれた線が引かれていた。

キャットフード

前世が人間だった猫用のキャットフードがどんどん美味しくなっていく。

電波塔

電波塔の不具合で、蝉が鳴かなかったため、本日は寂しい夏の日となりました。

マウス

好きなアイドルと同じ名前をつけたマウスを、俺の研究生活最後の実験に使う。

人工の太陽の完成記念式典の生中継を映していたテレビが、内部から溶け始める。

かわいい

火葬場で焼き上がった母の台車を取り出した瞬間、「かわいい~!」と声がして、振り向くと知らない女がいる。

宿題

小学校で「命」についての作文の宿題を出された少年が、下校途中に公園に寄り、蟻を一匹一匹潰している。

見上げた青空に、雲かと思ったら修正液で、何を消したのだろう。