毎日救急車のサイレンの音を口真似しながら町内を走り回っていたおじさんが、ある日救急車で運ばれていった。
担架に載せられた墓石が救急車に運び込まれる。
深夜の独房で初めての友人が出来た。
裏路地の塀に貼られた「忌中」の紙に、誰かが「(本当だよ)」と書き足した。
うちの子が泣き叫ぶたびに、隣に住んでる女が、その泣き声をバイオリンで再現して聞かせてくる。
恋人が私に、「両親に会ってほしい」と言って、ポケットから「父」「母」と刻まれた二枚の金属板を取り出した。
夜中、家の前の道を、納豆をかき混ぜる音が近づいてきて、やがて遠ざかっていく。
父の死体にたかる蝿を見て、母は食虫植物を買ってきた。
一人暮らしの家で、真夜中、包丁をしまっている戸棚から、カタッ、と音がする。
コンビニで猫の剥製を買ったら、頭の悪そうな店員に「温めますか?」と訊かれ、何のために剥製を買ったと思っているのだろうと腹が立った。
残業中、ちょっと息抜きしてくるわね、と言って先輩は、殺虫剤を持ってオフィスを出ていった。
アパートに帰ったら玄関の前でゴキブリが死んでおり、嫌々片づけていたら、隣室のドアが薄く開き、その暗闇の中から、小さな拍手が聞こえてきた。
息子が生まれたばかりの我が家に、知らない老人がやってきて、「人間に生まれ変わりましておめでとうございます」と分厚い祝儀袋を差し出す。
夜中の墓地から爪を切る音が聞こえてくる。
いつも右手に包丁を持っている彼は、私と歩く時、私を必ず左手側にしてくれる。
夜中のアパートの、歯ぎしりの音が聞こえてくる部屋のドアの前に、歯を抜く器具を持った老人が立っている。
交番に、塩を持ったおじさんがやってきて、「ナメクジの落とし物ありませんでしたか」と警官に尋ねる。
その幼い少年は毎日、総理大臣宛に、「あたまがよくなりますように」と書いた葉書を送っている。
前を走る古紙回収の軽トラの荷台から、「遺書」と書かれた封筒が落ちた。
そのご婦人は、喫茶店で、膝の上の骨壷にブラックコーヒーを一滴垂らした後、くすくす笑って、そのコーヒーに砂糖を入れた。
墓石にとまっていたトンボに向かって指を回していた少年が、トンボが飛び去った後も一点を見つめて指を回し続けている。
千回目のお色直しの後、花嫁は自身の死体を背負って現れた。
電車に、湯気を噴き出すやかんを持ったおじさんが入ってきて、痴漢しそうな人は手を出してください、と叫ぶ。
あのおじさんはいつも、首吊り縄でパチンコの場所取りをしている。
空港に張られた「立入禁止」のロープの向こうの地面で、飛行機雲がのたうち回っている。
市場の隅で、赤ん坊と蝶の標本が交換される。
いつもデートの待ち合わせに使っている火葬場で、今日は誰も焼かれていないのを見て、今日は彼との間に何かあるかもしれない、と何となく思う。
深夜のテレビにふいに、「今すぐ眠ってください」というニュース速報が流れる。
粘土のパッケージに、粘土で出来た赤ん坊を抱いて笑う女性の写真が載っている。
ある日役所から、俺が深爪しがちなことを注意するハガキが届いた。