トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

南極の上空に大量に現れた星をめぐって、科学者たちは様々な意見を戦わせていたが、地球に巨大な麺棒が迫ってきたのを見てようやく気づいた。これ、星じゃなくて、打ち粉だ。

あくび

鏡の中の私のあくびが伝染る。

コンプレックス

出会った人はみな、私の美しい顔を見て、「コンプレックスなんかないでしょう?」と訊きますが、実は、胸に刻まれた「SAMPLE」の文字がコンプレックスなんです。

繋がる

近所のマンホールの前に、宇宙服を着た人たちが行列を作っていた。そういえばこないだ地球のアップデートがあったな。意外な場所同士が繋がったものだ。

注意

何、消えた?だから言っただろ、棺桶の蓋閉めたらダメだって。あの仏さん、元手品師なんだから。

目次

夜、寝る前に、明日の目次を確認する。目立った事件はないが、「15時頃、急にお腹が……」と書かれてある。痛くなるのか、鳴るのか。最後まで書いていないのが目次の憎いところだ。まぁ、でも大昔は目次すらなかったというし。あるだけありがたいのかもしれな…

「あっ、××君」「なあに?」「××君の影、よく見るとキリトリ線があるよ」「本当だ」「ハサミで切ってみようか」「そうだね」チョキチョキ。「ブタだね」「うん、ブタだ。ブタの形の影だ」「××君は本当はブタだったんだね」「そう言われればそんな気がしてき…

夕焼けを眺めていたら、とつぜん夕日に、目玉の写真が映し出された。「こうなる前に……」町じゅうのスピーカーからそんな声が聞こえる。眼科の広告らしい。どうやら真っ赤な夕日を、真っ赤に充血した目玉に見立てているようだ。が、どうにも気味が悪い。たぶ…

駅の話

「駅(1)」 電車ごっこをしていた子どもたちが、墓地の前で何かを降ろした。 「駅(2)」 地元の駅は駅員一人で切り盛りしている駅だから、電光掲示板に時折「母が死にました」とか表示されるので面白い。 「駅(3)」 いつも「火星」の駅で降りていくあの子の七…

電信柱

ぼくらの町の電信柱は、虫ピンも兼ねています。だから動き出すことはないけれど、外を歩く時は鱗粉で足を滑らせないように注意しなければいけません。いつか空から見てみたいなぁ、と思っています。

解体

神社の石段の上から、ネジが一本転がり落ちてきた。続いて、朱く塗った木片がカラコロと。その次に落ちてきたのはナット、バネ、そしてキラキラ光る石。どうやら石段の上で、何かが解体されているようだ。神様じゃなきゃいいけど。

いわくつき

いわくつきだとは聞いていたので、廊下に子どもの足跡が現れたこと自体は受け入れられた。問題は、その足跡が、廊下を通って寝室に入ってきて、最終的に私の口元で途絶えていることだ。

水と声

バイト先のカラオケ店に、蛇口の客がやってきた。台所からシャワー、庭にあるものから洗濯機用のものまで、様々な種類の蛇口の団体客だった。普段水ばかり出しているから、たまには声を出したいということらしかった。案内した部屋へと向かっていくシャワー…

くちびる

放課後、学校の廊下の角を曲がると、上履きのかかとを踏んで歩く足が見えたので、「上履きのかかとは踏むな」と注意しながらよく見ると、そいつは足首しかなかった。足首はこちらを振り返り、不満そうにつま先でトントン、と床を蹴った後、階段を下りてどこ…

おやつ

「戸棚におやつが入っています」という書き置きにあった戸棚を開けると、そこには蝶の標本がぽつんと置かれていて、「私は本当はこの家の子じゃないのかもしれない」という思いがますます強くなっていく。

巨大な雪だるまが溶けた跡に、人間一つ分の内臓が落ちていた。

この間の写生大会で、空にUFOを描いた子だけが視聴覚室に集められ、何かを聞かされている。

母の遺品の、ボロボロの母子手帳の一番はじめのページに貼られていた古いレシートを見て、私の名前は両親がつけてくれたものではないのだと知る。

CM

地元のテレビ局が、三枚セットのコンタクトレンズや、レンズが三枚のメガネのCMを流しはじめた。あの人たち、とうとうこの辺にもやってきたのか。

義母

お義母さんとは「編み物」という共通の趣味があるので、お互いが着るセーターなどを編み合ったりして仲良くやっているが、違う星の人だということをつい忘れて、いつも袖の本数を間違えてしまう。

ネズミ

天井から時々カリカリと音がする。ネズミがすみついてしまっているらしい。いや、ちょっと嘘をついた。「時々」ではない。正確には、テレビの朝のニュース番組の占いコーナーで、蟹座が一位になった時だけ、決まって天井からカリカリと音がする。たぶん、ネ…

注文

「今日はどんな感じに?」「全体的に短くしてください」「もみあげはどうします?」「自然な感じで」「眉毛の下は?」「剃ってください」「ネジは?」「締めといてください」

道を歩いていたら後ろから、チリンチリン、と自転車のベルのような音が聞こえたので、道の端に避けつつ後ろをちらりと見ると、首輪に鈴をつけたおじさんが、一心不乱に鳩をむさぼり食っていた。

歯医者さんの顔が蟻そっくりだった。小さいけれど額には触角らしきものまで。訊いてみると、お母さんが改心した蟻だとのこと。うーん。「改心した」って、何か、嫌な言い方だな。蟻より歯医者さんの方が正しいみたいで。

通信

娘が玩具の電話で何かおしゃべりしている。かわいいなぁ、と思いながら聞き耳をたてる。「……うん。……うん。……ええ、はい。……そうです。……今は娘の中にいます……」

ブレーカー

思い切り鼻をかんだらブレーカーが落ちた。やっぱり充電中はおとなしくしていないと、だめだな。

荒野の果てに建っていた謎の塔の正体が毛糸の先端であることが判明し、地球が巨大な毛糸玉である可能性が出てきた。

ピンチ

電車の中でお腹が痛くなり、着いた駅のトイレに急いで駆け込んだが、「人さらいに注意」という貼り紙がしてある個室しか空いていない。

分別

新しく引っ越した町のゴミ分別表には、すべての曜日に「赤ん坊×」の赤い文字が。

風邪

別れた恋人との思い出の写真を、ハサミで一枚一枚切り刻んでいたら、その夜、ハサミが風邪をひいた。刃を触ると熱くて、ちょきんちょきんとくしゃみが止まらなくて、看病が大変だった。次の日文房具屋に持っていくと、おじいさんの店員さんに「あなたが写真…