トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

練習

初夏。姉が庭に出て、陽の光を浴びながらぼーっと突っ立っていた。「何してんの?」「練習」「何の?」「んー……」そんなことが数回あった後のある夏の日、いつも姉が立っていた場所に姉はおらず、一本の向日葵が咲いている。

ショーケース

お肉屋さんのショーケースに、「ブタ(天国)」と「ブタ(地獄)」。

ラの音を聴くたび、あの日白鍵に這っていた蟻を潰して殺したことを思い出す。

雨がかすかに、酒の匂いがする。いい雲だね。

美術館

月に建てられた最初の美術館から、父が描いた絵が運び出され、次々と焼かれていく。

ちらちら

家の電気がちらちらちらついてきた。電柱を見に行くと毛が生え始めている。剃らないと。

造花

造花に、蝶の死骸がセロハンテープで貼り付けられている。

特技

新しいお父さんの特技は前のお父さんのモノマネです。

気を遣って

叔父が遊びに来ると、気を遣って、パトカーのミニカーを隠す弟。

メールアドレス

一か月ごとに、母の余命に合わせて、父のメールアドレスが微妙に変わる。

電車で

母を殺しに行くために乗った電車で妊婦に席を譲る。

真夜中

真夜中、「月が見えません」とナースコール。

ダイエット

「ダイエットだよ」とつぶやいて、ダッチワイフの空気を少し抜く。

双子

双子らしい二人の女が役所にやってきて、片方の女が離婚届、もう片方の女が婚姻届を持って帰っていった。

遠距離恋愛

遠距離恋愛なの私たち。病棟がこんなに離れてるんだもの。

アラーム

猫を捨てに行くために夜中の時間にセットされたアラーム。

遺髪

私が勤める美容院に、髪の束を持ってきたおじさんが、「これ、娘の遺髪なんですけど」「はぁ」「これを金髪にしてください」

がんばれー

近所の子どもたちに「がんばれー、がんばれー」と応援されながら、おそるおそる殺虫剤を舐めてみる。

金持ちの親戚の家から泣きながら帰ってきた孫娘の手の中に握られた、雛人形の首。

どこへ

夜中の二時。横断歩道を手を挙げて渡る幼稚園児。どこへ?

げらげら

我が家に宗教の勧誘に来たおばさんが、庭の木の根元にぼくがアイスの棒で作った金魚の墓を見て、げらげら笑い出した。

ぼくらも

散歩中、彼氏がふと立ち止まり、誰もいない墓地をじっと見つめた後とつぜん、「ぼくらも踊ろう」と私の手を取って墓地の中に入っていく。

古本

バイト先の古本屋に、どう見てもホームレスのおじさんがやってきて、人間関係がうまくいくための本を買って帰っていった。

貼り紙

「百円以上入れてください」と貼り紙がされた賽銭箱。

こぶたちゃん

我が家では、ママが表札にこぶたちゃんのシールを貼っている家の子とは、喋っちゃいけない決まり。

今日

あ、今日妹の命日だから、家帰ったらケーキあるかも。

わかんねー

「死ぬかなー?」「わかんねー!」と叫びながら、救急車を自転車で追いかける小学生たち。

理科の××先生が、人体模型の心臓を洗っていた。「何で洗ってるんですか?」「……ぼくのよだれがついてしまったので……」

茶柱

借金の申し込みに行った親戚の家で出されたお茶の中に、茶柱が立っていた。なぜか気づかれてはいけない気がして、すぐに指でつまんでそっと捨てた。結局、金は借りられなかった。

死にたい

あの定食屋のおばさんは、ぼくが「死にたい」と言うと、「知らねーよそんなの」と言ってご飯を無料で大盛りにしてくれる。