超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

試供品

「試供品です」と施設から紹介されて我が家にやってきた赤ん坊は、ちょうど一歳を迎えると同時に死んだ。

バター

××牛のバターは月明かりでしか溶けないので、夜間の調理がおすすめです。

肩車

お隣の息子さんがお父さんに肩車をねだる声が聞こえてきたので、また夜空から星が一つ消えそうだ。

バウムクーヘン

背中に羽の生えた素っ裸の男の子が、何もない頭上をしきりに気にしながら、バウムクーヘン屋の行列に並んでいる。

祖父の火葬が終わり、台車を取り出すと、右手と左手でじゃんけんをした形跡があり、チョキで負けた左側の骨が数本足りなかった。

アドバイス

もし今後、子育てに疲れたら、これをハンバーグに混ぜてみてください。

煙草

俺がここクリックしたら、この人、死ぬんだよなぁ、と思いながら、かれこれ三時間、画面の前で煙草を吹かしている。

日曜の朝

何度パソコンに取り込んで修正しても、日曜の朝には必ず、祖父の遺影には寝癖がついている。

明け方、地平線に青いペンキの缶が並んでいたので、今日は晴れるだろう。

アルコール

最近、理科準備室のアルコールの量が少しずつ減っているのだが、人体模型の肝臓が明らかに傷んで見えるのと何か関係があるのだろうか。

彼と私、製造番号の末尾の数字が一緒、だということを知っただけで、こんなに熱くなっている、のは、「恋」、なのだろうか。

これは

これは、ほら、私、指に水掻きがありますんでね、指先ではまるように、特別にあつらえてもらった結婚指輪です、へへへ。

感謝

今日のお前の影、濃くて美味いな、太陽に、感謝だな、ひひ。

スマホに蝿がたかってるってことはあいつからのメールだ。

同級生

同級生より少し大人っぽい彼女は、文字盤に「13」まで刻まれている腕時計をいつもしている。

どーいしょ

おかーさん、どーいしょ、どこ、どーいしょ、ぼくがおかあさんのおなかのなかで、「はい」にまるつけた、あの同意書、いや、あそこになにがかかれていたのか、きゅうにふあんになってきて……。

お母さんの話

えーと、順番に、洗濯をするお母さん、掃除をするお母さん、子守歌を歌うお母さん、料理をするお母さん、料理されるお母さん、料理されるお母さんを料理するお母さんが料理した料理、お母さんの標本、お母さんの予備、そしてお母さんを産むお母さん。

隣家のベランダに白い丸い石が出ている日は、なぜか必ず町に濃霧注意報が出る。

ぱつん

ぱつん、と音がして満月が吹き飛び、巨大なボタン穴とともに夜空が弾けた。

おばあちゃん

生身のおばあちゃんは亡くなっちゃったけど、電子版のおばあちゃんはネットワークの中でまだ生きていて、ログインするたびにぼくらにお小遣いもくれる。

家紋

姉が嫁いでいった家の家紋がどう見ても土星で、この頃姉と連絡がつかないことが何だか多い。

鏡文字

何も映っていない鏡の前でうなだれる老婆の手には、鏡文字で名前が書かれた香典袋が。

我が家では季節に関係なく、毎月十七日に、居間の神棚から一匹の蚊が現れて、家族全員の血を吸い、また神棚に帰っていく。

交代

遙か頭上高く、雲の横に浮かぶ浮き輪を見上げながら、最近額に生えてきたチョウチンを指でいじっている。

扇風機

息子がうっかり扇風機の羽根に指を突っ込んでしまうという事故が起きた後から、電源を切ってもプラグを抜いても、息子が近づくだけで扇風機が勝手に回り出すようになった。

最近、家の中で小さな影を見かけるので、ゴキブリ用の罠を仕掛けてみたら、翌日、粘着シート一面に長い黒髪がびっしり貼り付いていた。

学校

卒業アルバムを見て初めて、地下にもう一クラスあったことを知る。

家出

二十年前、両親との大喧嘩の末、家を飛び出しそのまま行方不明になっていた少女と見られる白骨遺体が、このたび月面で見つかった。

本日、海が故障中のため、鮮魚商品の取り扱いはございません。

クローバー

あのね、俺をね、土に埋めっと、へそから、四つ葉のクローバーがね、生えてくっからさ、それ採っていいから、お嬢ちゃん、俺ね、死ぬから、どっか綺麗なとこに、埋めてくれねぇかな?