超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

あの薬を飲んでしまったから吠えれば吠えるほど体が溶けてゆくのにばかな犬だうちの犬は

最近のテレビ

最近のテレビはどのチャンネルをつけてもタレントがキャアキャアまたはシネシネ言いながら蟻を殺す番組ばかりやっている

宇宙の果ての星にたった一本生えていたサボテンに「抱きしめて」と言われゆっくり抱きしめると俺の宇宙服には少しずつ穴が開いていった

工場

お母さん工場の不良品をしまう部屋でお母さんになれなかったお母さんが壁に描かれた赤ちゃんの絵を叱っている

百円ショップ

新しいお父さんが来ることになったのでこの前百円ショップで買ったお父さんをマンションの屋上に呼び出して突き落とす

クレーンゲーム

クレーンゲームの中に大量の蝿が飛び交っていてお目当ての人形がよく見えないうえにやっとクレーンで頭を掴んだら首からぼろっともげてしまった

木々

ある朝目覚めてカーテンを開けると庭じゅうの木々がすべて私のTシャツを着ている

落とし物

好きな人の後を尾け「これ落としましたよ」と自分のへその緒を押し付けて走って帰る

コレクション

私の父は休日になると昔崩壊した「地球」という星へ行って美術館の欠片を拾い集めてコレクションしている

風鈴

短冊に母の血を一滴垂らした風鈴が風もないのによく鳴ること

ポケット

手術で心臓にポケットをつけてもらってそこへ入れている犬の写真を胸の上から時々触る

止まれ

真っ赤な顔をした酔っ払いのおじさんが「止まれ!止まれ!」と叫びながら自分の胸をドカドカ叩いている

人間の耳しか描かない画家にモデルの横でピアノを弾いてくれと頼まれる

第二志望

第二志望の学校に合格したので神社に行き賽銭箱の隣の払い戻し機で二十円戻してもらう

反抗期

反抗期の息子が放火に付き合ってくれない

げっぷ

花火くさいげっぷを一つしてそいつは真っ暗な夏の夜空を見上げニヤリと笑った

怒らなくなった先生たちの目と職員室の隅で飼われている傷だらけのそいつの目はぼくには同じ目に見える

ガラス蝉

ガラス蝉が自らの声でひび割れていくのをただじっと見ていたあの夏の夕暮れが懐かしい

二種類

赤ちゃんを愛せない場合は飲ませる薬と飲む薬の二種類ありますが

今日から

ああそうか今日から腕二本だからこの寝方じゃなくていいのか

拍手

夜空で一人月を演じ続ける母に今夜もベランダからどうせ聞こえない拍手を送る

足を崩す

胃薬を飲んだ直後俺の胃の中であいつが足を崩したのがわかった

ほっぺた

美術館の収蔵庫の隅の暗闇で油絵の中の貴婦人が何度も自分のほっぺたをつねっている

連凧

残業中ふと窓の外を見ると「課」「長」「を」「殺」「せ」と書かれた連凧が浮かんでいる

段ボール箱

引っ越しの荷造りをしている時父がどこかからもらってきた段ボール箱に「偽人間(徳用)」とプリントされているのに気づく

ベビーカーにチェーンソーを乗せた女が森の中に消えていく

悲しい目

監獄にいる神々が刑務作業で作った動物たちはみなどこか悲しい目をしている

人魚

人魚を背負った放火犯

うねり

立ち小便中のおっさんたちの鼻歌が偶然世界中でタイミングもメロディもぴったり合い巨大な音のうねりとなって地球を包み込む

転びそう

会社からの帰り道僧侶の死体に足を引っかけて転びそうになりそういえば今朝も同じ死体で転びそうになったのを思い出す