超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

要冷蔵・要黙祷。

彼女の腕にとまり、その血を吸っていた蚊の腹が、どんどん膨らんでいき、膨らんでいき、膨らんでいき、とうとう破裂して死んでしまった。「いつもこうなのよ」彼女は笑い、ナイフでちょっと手首を切ると、「あなたもどう?」溢れる血を私に差し出した。

次の電車

次の電車ぁ、空腹のためぇ、四両目にはご乗車おやめくださぁい。溶けまぁす。

退職

父の退職の日、サプライズで用意したケーキには、「長い間お疲れさま」と書かれたプレートと、ビスケットと薄いチョコで出来たギロチン台が。

ナメクジ

「明日もお願いね」娼婦の部屋から這い出てくる十匹のナメクジと、ベッドに潜る娼婦の、指のない両手。

練習

手術の日が近づいている。今日も、本番と同じ宇宙服を着て、練習用の発泡スチロールの塊にメスを構える。

新しい

産婦人科のある一室、生まれてくる赤ん坊のために、真四角の新しい影を、赤ん坊の形に切る人たち。自らの影はよれよれですっかりくたびれているが、その手振りは確かだ。新しい影の糊の匂いが、狭い部屋に満ちている。

付録

「月刊××子」の今月の付録は左手の薬指だったので、売れ行きが好調だった。

面倒

私がバイトするコンビニは、毎日必ず午前4時44分と午後4時44分に、誰もいないのに自動ドアが開くという現象が起こるのだが、明け方の方は絶対に反応してはならず、夕方の方は「いらっしゃいませ」と言わなければいけない決まりがある。面倒だから辞めようと…

クイズ

料理クイズね。手首は揚げるとグーになるでしょうか、パーになるでしょうか?

入り込んで

「また入り込んで、もう!」お隣の奥さんがそう叫んで、庭に位牌を投げ捨てていた。

静かな夏

静かな夏。葬式。遺影に写っているのは、蝉。最後の蝉。静かな夏。これから、ずっと、静かな夏。

ゴキブリ

私が部屋の隅に見つけてから殺虫剤を吹きかけるまで、そのゴキブリは一歩もそこを動かなかった。ゴキブリが死んだ後で、こいつは自殺をしたのかもしれないと思った。

野生

先ほどは吠えられて逃げ去った野生の理容師。今度は別のオスライオンに近づいていきます。

日課

私の妻は、あの日のあの宣告以来、動画サイトを回って、赤ん坊の映っている動画に、低評価ボタンを押すのを日課にしている。

バレンタインデー

バレンタインデー、地味なクラスメートからもらった手作りチョコをかじると、中から、先週から行方不明だった、クラスで飼っている金魚の死骸が出てきて、同封された手紙に「飼育係の君がしっかりしてないから」と書かれている。

折り紙

折り紙の本に、「親」という名の、何かぐちゃっとした物の折り方が載っていて、「ちぎったり燃やしたりして遊びます」と書かれている。

光る

住人が呪いで死に絶えた村からやってきた廃品回収の軽トラの荷台で光る、一着のウェディングドレス。

祖父は幼い頃から、首を吊るために一本の木を育てていたが、その木が成熟する前に戦争にかり出され、死んでしまった。どんなに無念だったろうか。今、その木は庭にあり、時折真っ赤な実を生らす。それは食えたものではないが、その赤い色は、祖父の頬にそっ…

地蔵

近くで事故や事件があると、その六体の地蔵たちは、赤い前掛けを、よだれのような液体でびしょびしょに濡らす。

某中学校の理科教師が複数の殺人事件に関与していた疑いで逮捕された。彼が出入りしていた理科準備室にある人体模型は、いくつかの臓器に「済」と書かれた紙が貼られていたという。

義眼売場。半額シールが貼られた一個の義眼。瞳の色がわからないのは、半額シールがちょうど、瞳の位置に合わせて貼られているからだ。店員の遊び心を感じる。

ガムテープ

その寺の仏像は、口をガムテープで塞がれている。「すぐ怒鳴るし」若い住職はそう話す。

缶詰

「いいだろこれ。昨日食った缶詰の中に入ってたんだぜ」「すげー、何それー」「父ちゃんに聞いたら、「ギインバッヂ」って物なんだって」

握手

事務所のドアをノックすると、扉が開き、作業服を着た巨大なカマキリが現れた。「ようこそいらっしゃいました。ああ、握手……はできませんね、ははは」彼こそが、この養蝶場の経営者である、××氏だった。

残業中

背中に翼の生えた会社員が残業中、自分の他に誰もいないオフィスで、ふと立ち上がりコピー機の前に行き、体を奇妙に曲げ、翼をコピー機に挟む。そしてその姿勢のままボタンを押し、翼を写した紙を排出させる。彼はそれをしばらく眺め、抽斗の一番奥にしまう…

凝っちゃって

「肩凝っちゃってさぁ」マッサージ店に雪だるまが入っていく。「いらっしゃいませ。今日もろうそくで?」「いや、今日はバーナーでいっちゃって」「凝ってますねー」

金魚

「残念だったね、はいこれ」金魚を一匹もすくえず肩を落としていた子どもに、屋台の親爺が一匹の金魚を手渡す。すると子どもは異常なほど喜んで、駆けていき、神社の裏に碇泊していたUFOの中に消えていった。

蛇が、私と一緒に、スマホを飲み込んでくれたお陰で、溶けるまで退屈せずに済んだ。

カラス

ゴミ捨て場のゴミ袋を破って荒らしたカラスたちが、それぞれのゴミを出した家の玄関の前に、石ころを置いていく。どうやら投票が行われているらしい。