超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

シャツを洗おう

新しく買ってきた可愛いシャツを洗おうと、タグの洗濯表示を見ると、「牛の血不可」の表示が。洗濯機に溜まった液体を舐める。ぺろり。うん、山羊の血だ。大丈夫だ。ぽいっ。

少し

道端。「拾ってください ひらがな少し覚えています」と書かれた段ボール箱の中に、小さな脳味噌が一つ。

看板

「レギュラー」「ハイオク」「軽油」「灯油」の看板が、町はずれのバーの店先に。

さよーならー

「せんせー、さよーならー」近所の小学校からそんな声が聞こえたのでふと見ると、校庭の真ん中で子どもたちが手をつないで輪になっており、その輪の中心にいる女性がどんどん地面に溶けていく。

オススメ

それならばこちらがオススメです。魂まできちんと殺す殺虫剤になっております。

うつむく

「また自殺か」うんざり顔でそうつぶやく神様の前で、ぼくはうつむく。「次はもう、人間はやめる?」そう問われて、ぼくは小さくうなずいた。

青空

学生の頃につけていた日記を読み返していたら、目がものすごくかすんで吐き気がしてきた。医者に行くと、「読中毒ですね」と言われた。食中毒の一種らしい。あの日記、病んでたからなぁ。目薬と青空の写真を処方された。

煙草

「煙草吸ってくるわ」「お土産買ってきてね」「ん」父は宇宙服に着替え、喫煙所のある星へ飛び去っていった。

「忘れられない女がいるから」と結婚はおろか恋愛すらしなかった友人が死んだ。火葬された後、彼の骨を見ると、頭蓋骨の内側に、一つ、ぽつんと、口紅のキスマークが残されていた。

アップデート

先日のアップデートで、蜂が日本語に対応しました。蜂の駆除業者に新たに求められるスキルとは。取材しました。

育てる

お母さんに叱られたので、お母さんの種のメーカーに電話した。「袋に、優しい、って書いてあったじゃないですか」「叱るのも一種の優しさですよ」電話はそれで切れた。お母さんを育てるのは本当に難しい。

夜、ベランダに出て、恨めしそうな顔で空を見上げつつ、指先を吸っている女の子。何だろうと思い、つられて夜空を見上げると、三日月の尖った部分に、わずかに血が付いている。

あたたかさ

日向に本を置いておいたら、あたたかさのせいで、語尾の「。」がふ化して、本の中の語尾という語尾がかわいくなってしまったピヨ

まばたき

××町交差点におきまして、点検中の作業員が、赤信号に誤って青信号用の目薬をさしてしまうという事例が発生しました。現在、当該の赤信号は激しくまばたきをしています。通行の際は十分ご注意ください。

「海の夢と、森の夢がありますが、どちらになさいます?」手術前、麻酔薬を選ばされた。「女の子の夢はないの?」「ないです」

過去

私の父は自らの過去をめったに話さないが、母によると、詳細はわからないが、父は過去の恋愛が原因で、全国の養豚場を出入り禁止になっているそうだ。

笑い

摘出した腫瘍は患者さんにそっくり!手術室はどっと笑いに包まれました。

夜、外を歩いていると、殺雲剤のにおいがぷん、と漂ってきた。小学校の前を通りかかったら、運動会用の入場門が設置されていた。そうか、だから、明日を晴れにするのか。

どく

ロールプレイングゲームをやっていたら、死んだ弟に似ているキャラクターが仲間になったので、彼と同じ名前をつけて、それから「どく」状態にし、戦闘不能になるまで治療せず放っておいた。

歴史

博物館の「地球の歴史」を展示したゾーンの最後に展示されていたのは、最後の地球人が捨てられた時のゴミ袋だった。

背中

近所の銭湯でたまに見かける、「豚バラ 150g」「ニンジン 1本」「タマネギ 1個」「ジャガイモ 1個」と背中に彫られているそのおじさんは、近づくとカレーのにおいがする。

明け方、猿山の老猿が、手の指で印を結んでいたので、今日、この動物園で何かが死ぬらしい。

ツヤツヤ

何度も見て見慣れているはずなのに、脱皮直後のツヤツヤの妻を見ると、いつもドキッとしてしまう。

物真似芸人

朝、近所の住民の通報によって警官が駆けつけるまで、その物真似芸人は、軒下にぶら下がった母の首吊り死体を前に、夜通し一人二役で口喧嘩をしていたそうだ。

立入禁止

「立入禁止」の立て看板の向こう、ヘルメットをかぶり、喪服を着た人たちが、マンホールの中から次々現れて、小さな仏像や欠けた茶碗を運び出している。ドブの臭いの中に、微かに線香の香りが混じっている。

バッヂ

謎の封筒が家に届いた。開けると、中には、「あなたの思い出が優勝しました」と書かれた手紙と、金色のバッヂが入っていた。バッヂを、死んだ子の仏壇に供えた。

双子の兄を連れて、母親は失踪した。父親はいなかった。双子の弟は母親の残り香が漂う布団に顔を埋めて、「どうしてぼくじゃないの」と泣いた。母親の鏡台に、花占いをした跡が残されているのには気づかないまま。

「お耳箱を開けておいて」母はピアノの前に座って言った。言われた通り、耳箱を開ける。中には、母のファンたちから送られてきた彼らの耳がぎっしり詰まっている。一つ一つ並べていく。よく見ると耳は、かすかに震えている。久しぶりに母のピアノを聴くので…

事件

最近、SNS等で「料理が得意」と発信している母親ばかりを狙った誘拐事件が相次いでいます。

辞書

辞書を開くと、「囚」の字が「口」になっていた。脱獄だ!