2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧
父を食べた。虫歯になった。歯医者に行った。「悪い人食べました?」と言われた。父が悪い人……。ショックだった。
「すみません、こちら今品切れで……」(遠くから救急車のサイレン)「……いや、何とかなりそうです、少々お待ちください……」
せめてこれを便所の窓辺に置いてあげてください、そしてこれにあなたが小便をするところを見せてあげてください。ある穏やかな午後、自殺した彼の老母が、彼の生首を提げて、やってきて、そう言う、泣きながら。
火葬場の所長と、パン屋の店長は、双子の兄弟である。時々、入れ替わっているらしい。それぞれがそれぞれの炎のことを考えて、それぞれの嫁に晩酌の時に報告するそうだ。
粉ミルクを万引きし現行犯逮捕された女の家から、死後三年ほど経過した赤ん坊のミイラが見つかりました。女は「もうすぐ生き返る」と供述しています。
来年から理科の教科書が替わります。あの実験は行いません。校内に、遺影を飾る場所がなくなってきたからです。
燃えさかる我が家の前にひざまずき、彼は私に婚約指輪を見せた。家の中からは、母と姉の断末魔の叫びが聞こえてくる。助からないだろう。未来は明るい。私は、ゆっくり彼に頷いた。
クラスで一番地味な子に、いたずらでスカートをめくったら、下着のかわりに下半身に注連縄が巻かれていて、ぷん、と酒の匂いが鼻をついた。
私のクラスの担任の先生は、未来が見えるから、出席簿は、死ぬ日順。
赤く光るネオン管を、「死」「の」「う」の文字の形に曲げていく。そういう注文を受けたんだから仕方ない。
近所の家の表札に、夫婦と思われる名前のほかに三つ、全く同じ名前が刻まれていて、それぞれ「(S)」「(M)」「(L)」とある。
溶けかけた雪だるまに蝿がたかり始めた。
冬になると、妻が、ある文庫本のページとページの間に、あかぎれの薬を塗り始める。冬になると、その文庫本は必ず、決まったページの間に、血が滲んでいるのだという。「主人公が幸せになる場面なのにね」冬になると、妻は、そう言って少し寂しそうに笑う。
ニュース番組の途中、「えー、ここで速報が入ってきました……」と、ニュース原稿を受け取ったアナウンサーが、その原稿をじっと見つめたまま動かなくなり、やがて鼻の穴から血がどろりと垂れてきて、「しばらくお待ちください」の画面に。
その虫は古い人形の頭しか食べない。首のない人形が増えていくのは不気味だ。
「ばいばい、またね」彼女と話した後、受話器を置こうとすると、受話器の穴から、一輪の花が咲いていることに気づいた。摘み取って、花瓶に挿す。白い、華奢な、彼女のような花だ。
えー、明日は身体測定がありますので、えー、まぁ、ずるをする子はうちのクラスにはいないとは思いますが、今配った器具で、えー、背中の翼を固定して、測定を受けるように。え?ああ、大丈夫大丈夫、器具の重さは体重から引くから。
××氏は彼の管理する文字畑を私に見せてくれた。そこには「愛」の字と「夢」の字が沢山育っていた。「商売ですから」彼は照れ臭そうに言った。「こういうのも」彼は文字畑の外れにぽつんとある一角を指さし「あるにはあるんですよ」そこには「国」の字がわず…
五線譜が印刷された蝿取り紙です。蝿が弾けますよ。
木の枝に揺れる首吊り死体の下に、人々が集まっている。「またですか」「あの女は諦めた方がいいかもしれませんね」人々はそんなことを話し合っている。首吊り死体と、集まった人々は、全く同じ顔をしている。「次は誰がいきますか」
一台のタクシーが、道の途中に停まって、激しくクラクションを鳴らしているが、タクシーの前にあるのは、朝日に照らされる子猫の死骸が一つ。あの運転手には、何が見えているのだろう。
衛星(中古)。餅をつく兎に見えるシミあり。
大吉のおみくじに「あいつ 死ぬ」の文字が。どいつだろう。神社の階段を軽いステップで駆け下りながら、様々な顔が浮かぶ脳内。
叔父が家に来ると、仏壇に納められた祖父や祖母の遺影が、ばたばたと一斉に横に倒れる。「死んだふりしてんだよ」ある日父がそっとそう教えてくれた。
船の上にずらりと並んだ漁師たちが、海面に向かって「死にたい」とつぶやき始めました。××ウオの心配性で優しい性格を利用した、伝統の「死にたい漁」です。
「今後は「死ね」という言葉を控えることですねぇ」と、歯医者は、真紫に変色した父の舌を診て言った。
念には念を入れて浮気をする。いつも、妻の知らない、海の中にあるラブホテルで密会している。蟹が経営しているホテルだ。狭いが全室泡風呂がついている。たまにシーツに切れ目が入っている時がある。従業員も蟹ばかりなのだ。タイムカードはとても分厚い紙…