2012-01-01から1年間の記事一覧
遠い場所に住んでいる恋人が詩を書いて送ってくれた。 嬉しくて嬉しくて、肌身離さず持ち歩いていたら、飼い犬が嫉妬してしまった。 ある晩胸騒ぎがしてベッドから身を起こすと、飼い犬が詩の喉元に噛み付いていた。 恐ろしくて恐ろしくて、何も出来ずに眺め…
ママのおっぱいには左右にそれぞれ違う男の人の顔が彫ってある。 僕と妹が左右からぎゅーっとすると、真ん中で合わさって一人の男の人の顔になる。 その顔がパパにそっくりだということに妹はまだ気づいていない。
たしか4歳か5歳頃のことだ。 ある日曜日の朝、目を覚ますと窓の外に大きな虹が見えた。昨晩の大雨はすっかり止んでいた。隣家の塀から顔を出すつつじの花に、小さな水たまりが出来ていた。私はぼんやりとそれを眺めながら、窓を開けた。 すると、庭の方から…
死んでしまいたいと思いながら、砂浜を歩いていた。 夕日を溶かした波のかたまりが海のあちこちで萌えていた。 笑い声が聞こえた。 ふと前を見ると、疲れた顔の漁師が砂の上にうつ伏せになり、ヒトデとジャンケンをしていた。長いあいこののち、漁師がグーで…
壁に様々な器具が吊り下げられている薄暗い部屋で、K子は古いタイプライターにムチを入れている。 タイプライターはFのキーをがちゃがちゃ言わせながら、全身を痙攣させている。ムチの勢いとは裏腹に、K子のテンションは低い。こういう客は慣れていないのだ…
初めての一人暮らしである。妥協はしたくなかった。 もっと安い部屋はありませんかと聞くと、不動産屋は一瞬暗い顔になり、 「あるにはあります」 と答えた。 「いわくつきですか?」 と尋ねると、今度は何も答えない。ただ奇妙な笑みを口元に浮かべたまま、…
4歳の夕暮れ、母と駅で電車を待っていると、向かいのホームのベンチに6歳くらいの女の子が座っているのが見えた。 女の子は手に持ったたい焼きを気だるそうに食べていた。膝には絆創膏を貼っていた。 目が合った。大きな目だった。猫みたいなにおいが鼻をつ…
ある晩、父が火柱になってしまった。 母の悲鳴を聞き寝室に駆けつけると、布団の上に細い火柱が立っていた。 大きな四角いレンズのメガネが、火柱の上部で頼りなく揺れていた。唯一残された父の痕跡だった。だが、それもじきに燃え尽きてしまった。 * 次の…
自宅のアパートの階段に、見慣れぬ女が腰かけていた。 膝を抱えて、自分の足元をじっと見ている。外人みたいな目をした、むちむちした体の女だった。長いスカートと、ブルーのシャツ。ウェーブのかかった髪を後ろで縛っていた。化粧は薄く、肌の感じからする…
アルバイトの帰り道、ラブホテル街を歩いていたら、自販機で小さな竜巻が売られていた。手のひらに乗るサイズで、1時間ほどで消滅してしまうらしい。 次の日同じ道を通りかかると、中年のカップルが自販機で竜巻を買っていた。 男が小銭を入れ、スイッチを押…
栗子さんは田舎町に生まれた。ある夏の晩のことだった。 栗子さんがこの世に咆哮をあげた瞬間、分娩室にいた人々は部屋がぐにゃりと歪むのを感じた。人々は栗子さんの顔を覗き込み、その美しさに息を呑んだ。栗子さんを取り上げた看護婦は栗子さんを胸に抱い…
私の叔母は今年、40になる。マンションの6階で、20も年下の男と同棲している。 彼女の髪は真っ黒で、腰までまっすぐ垂れている。綺麗な脚がご自慢で、いつも下着が見えそうなくらい短いスカートを履いている。セックスの前に必ず外国のお茶を飲む。チョコも…
妻の出産に立ち会った。 マスクと手袋と帽子まで着させられたわりに特にすることがなかった。仕方なく妻の形相を観察していたら、突然、空気がビリビリと震えた。 もしやと思い、股ぐらを覗き込んでみた。案の定頭が3分の1ほど出ていた。 しかしそこからあま…
人間ドックでレントゲン写真を撮った。鎖骨に口紅の跡が付いていた。違和感を覚えたまま妻と修羅場になった。
クリスマスの深夜、バイトの休憩時間に外で煙草を吸っていたら、大通りに飾られているモミの木のてっぺんから叫び声が聞こえてきた。野太い男の声だった。 見上げると、空に浮かんだ粗末なそりの上で、サンタクロースがトナカイに胸倉を掴まれていた。 何か…
早朝の住宅街。新聞配達の少年が古い自転車を押して歩いていた。 パンクしたわけでも、疲れているというわけでもなかった。頬は紅潮し、吐く息は熱かった。配達区域はとっくに通り過ぎていた。 彼は何の変哲もない家の前に自転車を停めた。表札には、仲間か…
もし私が、私の子孫の誰かの枕元に立っても、助言できるのは、足のむくみの解消法くらいだろうな。 安アパートの屋根を見下ろしてそんなことを考えた。 トンカツの衣を唇にいっぱい貼り付けて 「今日の弁当旨かったな」 と話しつつ、私の魂を運ぶ天使たちに…
(一) ある日曜日、誰にも名前を覚えてもらえない総理大臣が自宅の庭でビーグル犬の「ジョン・レノン」と遊んでいると、空からたくさんの風船が沈んできた。 風船の紐の先には、小さな本がくくりつけられていた。誰にも名前を覚えてもらえない総理大臣は本…
部屋が天使だらけなのに嫌気がさして、目を閉じたら、まぶたの裏にも小さな天使が張り付いていた。
「小学生だった私は、新しい長靴を買ってもらって、ご機嫌だったわ」 「ある年の秋、長い雨が降って」 「神社の裏庭に(私のお気に入りの場所だった)」 「大きな水たまりができたの」 「小学生だった私が、新しい長靴を履いたまま、水たまりを覗き込むと」 …
仕事が忙しくて、火葬場から来ていたハガキに気づかなかった。 ハガキには 「ご当選おめでとうございます」 の言葉とともに、QRコードが印刷されていた。 私は画面がひびわれたままの携帯でQRコードを読み取った。すぐに画面が切り替わり、 「焼却中...」 と…
息子が縁日で金魚をすくってきた。 金魚鉢に移して眺めていると、丸い腹の真ん中辺りから、白くて細い虫のようなものが突き出ていることに気づいた。それは人の指だった。 息子に教えると、興味深そうに金魚を観察し始めた。息子は実に間抜けな顔をしていた…
飲み屋で友人と騒いでいたはずだったが、気がつくと夜道に倒れていた。服も携帯もゲロまみれだった。周りには誰もいなかった。 倦怠感が拘束衣のように全身にまとわりついていた。頭が痛かったので手を当てると、血が流れていた。口の中に錆びた鉄の味がした…
ロボット犬のウンコは美しい。半透明で、光の当たり具合で七色に変化する。しかも果物や花のにおいがするので、女子高生にとても人気がある。 そんなロボット犬のウンコを手首に巻いた女子高生がある日の放課後、ロボット教師にパンツと唾を30000円で売った…
狼が死んだ。身寄りはなかった。葬式に来たのは、長男豚だけだった。 坊主の説教を聞いているとき、鼻の奥に埃と藁のにおいがつんと漂った気がした。 狼は小さな学習塾で数学を教えていたが、ある夜、夢の中で猟師に撃ち殺されてから少しずつおかしくなり、…
退屈な退屈な退屈な退屈な退屈な授業中にシャープペンを分解していたら、机の上に広げた部品の中から、徘徊中にいなくなったおじいちゃんがひょこひょこ出てきた。 おじいちゃんは僕を見て何か叫んでいた。声は聞こえなかったけど、吐きたくなるような口臭は…
CGの父が仕事をする、CGの書斎。 CGの母が眠る、CGの寝室。 CGの妹が下着を選ぶ、CGの6畳間。 それらを結ぶCGの廊下に、実写の僕の実写のうんこが、ぽつんと落ちている。
亀をいじめる子供たちが全員、両手がドリルだったので、太郎は釣竿を磨くことにしました。 それから、この海岸は明日からモーゼが海を割る練習に使うので、しばらく立入禁止になります。 よろしく。
(一) (親父の墓参りに行くのはいつだっけ?) などということを考えながら、あとむはうらんの鼻の下の産毛を唇で挟んだ。 うらんは固く目を閉じ、右手で前髪を隠して、左手であとむの尻を触りながら言った。 「あんたがあたしのうえにのっかってきて、わた…
彼は正義のヒーローである。 彼は今日、港に現れた怪人とその眷属50人を叩きのめした。 夕方秘密基地に戻り、書類をまとめ、正義の博士の判をもらい、タイムカードを押し、ロッカー室で普段着に着替えたあと、地元のスーパーに赴き、万引きで捕まった母を迎…