ある晩、父が火柱になってしまった。
母の悲鳴を聞き寝室に駆けつけると、布団の上に細い火柱が立っていた。
大きな四角いレンズのメガネが、火柱の上部で頼りなく揺れていた。唯一残された父の痕跡だった。だが、それもじきに燃え尽きてしまった。
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次の日の夕方、父が勤めていた市役所から、役人が何人もやってきた。何だか皆同じ顔をしていた。彼らは大きな封筒を母に手渡し、すぐに帰っていった。
その夜、数年ぶりに家族会議が開かれた。
長い沈黙ののち祖母が口を開いた。
「畑に置いとけ」
「イノシシよけくらいにはなるだろよ」
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ある朝、新しい父がやってきた。精悍な顔つきの男だった。男は荷物を置き、私たちに挨拶を済ませると、仏間にこもり、夕方まで祖母と何か話をしていた。
私は自分の部屋に戻り、窓を開けた。男が乗ってきた汚いワゴン車を、父だった火柱が赤く照らしていた。