超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ぶたとおおかみ

 狼が死んだ。身寄りはなかった。葬式に来たのは、長男豚だけだった。

 坊主の説教を聞いているとき、鼻の奥に埃と藁のにおいがつんと漂った気がした。

 狼は小さな学習塾で数学を教えていたが、ある夜、夢の中で猟師に撃ち殺されてから少しずつおかしくなり、一週間前、Tという小さな地方の駅で、線路に飛び込んであっさり死んだという。

 帰りの電車の中で、長男豚は家族のことを久しぶりに思い出した。

 次男豚は17のときに豚キムチになった。

 それ以外何も思い出せない。

 三男豚は大学を出たあと福岡に渡り、現代アートにかぶれている。

 もう20年以上会っていない。

 母さんの顔なんて、もはやちっとも思い出せない。

 ああ、隣に座っている女子高生の胸が大きくてドキドキする。