超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

サンタとトナカイ

 クリスマスの深夜、バイトの休憩時間に外で煙草を吸っていたら、大通りに飾られているモミの木のてっぺんから叫び声が聞こえてきた。野太い男の声だった。

 見上げると、空に浮かんだ粗末なそりの上で、サンタクロースがトナカイに胸倉を掴まれていた。
 何か揉めているようだったが、外国語だったので内容まではわからなかった。

 しばらく眺めていたら、トナカイがとうとうサンタクロースをぶん殴った。サンタクロースの口から白いものが飛び出した。
 白いものはモミの木を揺らして、地面に落ちた。拾い上げてみると、黄ばんだ差し歯だった。手を洗いにバイト先に戻った。

 サンタクロースは頬をおさえたままずっと空に佇んでいた。その冬、雪は降らなかった。