4歳の夕暮れ、母と駅で電車を待っていると、向かいのホームのベンチに6歳くらいの女の子が座っているのが見えた。
女の子は手に持ったたい焼きを気だるそうに食べていた。膝には絆創膏を貼っていた。
目が合った。大きな目だった。猫みたいなにおいが鼻をついた。
「あれ、あんたのお姉ちゃんよ」
「あんたが生まれる前に死んじゃった」
と母が言った。私はふうんと思った。
「まだ食べてんのね、あれ」
向かいのホームに電車が滑り込んできた。見たことのない電車だった。車内には白い靄みたいなものが充満していた。
ピルルルルルル、と何かの鳴き声がして、扉が閉まる音がした。開いた音は聞こえなかったから、ちょっと不思議だなあと思った。
電車は音もなくホームを出ていった。ベンチの女の子はいなくなっていた。
「ママったらひどい女ね」
と母は自嘲気味に笑いながら言った。私はふうんと思った。