超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

カタカタ

 深夜、ボロアパートの一室で、一人の中年男が、パソコンで遺書を打ち込んでいる。カタカタ、カタカタ、とキーボードを叩く音が響いている。どこかで犬が吠えている。男の表情は晴れ晴れとしている。やがて遺書が完成する。男は最後の煙草に火をつけ、それをゆっくり味わいながら、完成した遺書を読み返す。書きたいことは全部書けた。思い残すことはない。心置きなく死ねる。男はプリンターの電源を入れ、用紙をセットする。その時、男の背後で、チチチ、と鳴き声がする。男が振り返ると、鳥かごの中でペットの小鳥が鳴いている。そうだ、こいつを自由にしてやらなきゃ。男は鳥かごを開ける。小鳥が飛び出して、パソコンの前に着地し、くちばしでキーボードをつつく。カタカタ、カタカタ。男が苦笑いしつつ、画面を見ると、画面に《やきとり》という文字が表示されている。