超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ばっ

 ある真夜中、もう何か月も真っ暗な部屋で、パソコンを開き、遺書を打っていた。パソコンを開く前は頭の中でうまく文章がまとまらなかったので不安だったが、打ち始めるとすらすら文章が出てきた。これで心置きなく死ねる。数年ぶりに爽快な気分を味わっていた。その時、画面に小さな黒いものが、ばっ、と張り付いた。小蝿か何かだと思いよく見ると、それは小さなお坊さんだった。小さなお坊さんは、遺書を舐め回すようにしばらく画面を這い回った後、ぶるぶるっ、と体を震わせ、あぁ、と恍惚の声を漏らした。そしていきなり、ばっ、と飛び上がり、闇の中へ消えていった。俺は、死ぬのをやめることにした。