超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

星の数ほど

 会社の昼休み、独身の先輩が、可愛い弁当箱を取り出した。可愛い弁当箱っすね。俺が話しかけると先輩は、照れくさそうに蓋を開けた。彼女でもできたんすか。と言いながら中を覗くと、弁当箱の中には生のトマトが一個入っているだけだった。俺こいつと結婚したんだわ昨日。先輩は言った。こいつって誰ですか。誰っていうかこれこれこのトマト。トマトと結婚したんすか。一昨日プロポーズしたのよ仲人は八百屋の親爺。先輩はそう言いながらトマトを手に取った。そのトマトさんどうするんすか。食うよ。食うんすか。だって腹減ってるもん。先輩はトマトにかじりついた。果汁が飛び散った。先輩はあっという間にトマトを平らげた。あーあまた独身かあ。先輩はため息をついた。まあでもトマトなんて星の数ほどあるからな。先輩はそう言って笑った。