超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

なりますの

 ある夏の日、ホームセンターに品のいい婦人がやってきて、殺虫剤をレジに置き、店員に言った。プレゼント用のラッピングをお願いいたします。店員が言った。どなたにプレゼントされますか。息子です。店員が殺虫剤を、男の子向けの包装紙で包んでいる時、婦人が照れくさそうに言った。うちの子はほんとに生き物を殺すのが好きなんです。婦人は綺麗にラッピングされた殺虫剤を手に取り、うきうきと去っていった。翌年の同じ夏の日、その婦人がホームセンターに現れて、包丁をレジに置いた。前回と同じ店員だと気づいた婦人が言った。うちの子殺人鬼になりますの。店員は包丁をラッピングして手渡した。数日後、店員がテレビをつけると、殺人事件のニュースが流れていた。母親が息子を刺し殺したらしい。そして「逮捕」のテロップとともに映し出されたのは、あの婦人だった。