レストランの料理長が調理前にやってきて、「こちら、前世は盗癖のあった女です」と、豚肉の塊を見せてくる。
処刑が行われたばかりの処刑場はなぜか涼しいので、夏に処刑が行われると、僕たち子どもは喜んだものだった。
火葬場に組まれたクイズ番組のセットの中で、解答者たちがボタンに手をかけながら、煙突から煙が出るのをじっと待っている。
「効能」の札に「殺意」と書かれている温泉に通じる脱衣所に、包丁の忘れ物があった。
病院の前の「ご自由にどうぞ」の手術台が、今日は赤く汚れている。
定食屋で豚カツを食っている時、店のテレビに笑う豚が映っていたので、チャンネルを変えたが、今夜はどの番組でも豚が笑っている。
帰宅したら、玄関の外で包丁を握りしめて立っていた母が私に、「第一問」と言った。
その老人は火葬場の前を自転車で通り過ぎる時、誰かが焼かれていると、必ず、チリン、とベルを鳴らす。
墓地を歩いた後の靴底の溝に小さな骨片が挟まっている。
保健所が立入検査をしたところ、その養豚場の豚には、影が無かった。
金魚すくいの屋台の店主が、私に金魚を手渡しながら、「死んだらまた来てね」と言ったが、私のことなのか金魚のことなのかわからない。
散歩中、霊柩車を見かけた中年男が、慌ててスマホを取り出し、実家に電話をかけ、「母ちゃん、親指!」と怒鳴り始める。
夏祭りの、お面屋の店主が、客がいない時、ずっと、自身の顔をペタペタ触っている。
へその緒のクレーンゲームの筐体に赤ん坊の写真がびっしり貼られている。
誰も来ない美術館に立つ警備員の口元に、絵の具が付いている。
ゴミ捨て場のふれあいコーナーで、子どもたちが腐肉の塊を撫でている。
首吊り縄の説明書の表紙に載せる大樹の写真を撮りに行く。
ニュース番組をぼんやり観ていたら、アナウンサーが「訃報です」と言った後、ニヤニヤ笑うだけでそれから何も言わない。
何もいないペットショップに、「※イメージ」と書かれた犬の剥製が置かれている。
友だちのお葬式をしたいのに、電子レンジはお母さんが使ってる。
留守中に誰かが私の部屋に侵入したらしいが、電灯の紐が短く切られていた以外に、異変は無かった。
風で膨らんだカーテンが、窓を閉めても元の形に戻らない。
生物の死骸にしか咲かないはずの花が、月面にびっしり咲き誇っている。
菜食主義者の恋人に、肉切り包丁で愛撫されている。
日曜日、観賞用刑務所に収監する囚人を買いに出かける。
理科の授業中、居眠りをする男子に、先生がスポイトを持って近づいていき、彼の耳の穴から何かを吸った。
コンビニの募金箱の中に小人が閉じ込められていて、硬貨は痛いから入れないでくれ、と懇願してくる。
網でイカを炙っている時、縮こまっていくイカがゲソの先端で空中に「タコ」という文字を書いていることに気づく。
目の前を通り過ぎていった霊柩車が、ゆっくりバックで戻ってくる。
右目に眼帯をつけた大道芸人が動かす操り人形が、自身の右目をかきむしっている。