超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

街灯

道端の捨て子を照らす街灯が、三三七拍子のリズムで瞬いている。あやしているのか。

母の首を絞めた手にほくろが増えている。

そのゴキブリは仏壇の中に入っていった後、二度と出てこなかった。

さびしい

今度引っ越した家は火葬場からも遠いし、そんなこと絶対にありえないはずなのに、カーテンを開けると窓の外に火葬場が見える。火葬場の方が、ぼくの家に近づいてきているのかもしれない。

黒いクレヨン

まだ赤ん坊の娘と、三歳の息子が、お喋りしている。「あーあー」「でもなぁ……」「うー」「霊柩車の絵は、黒いクレヨンいっぱい使うから……」「あぁーなぁー」

元日

元日、寂しくて、他人の家から、年賀状を盗んでしまった。

雨漏り

雨の夜、天井から際限なく蜘蛛の死骸が落ちてくるが、家族みんなが「雨漏りだね」と言うので、ぼくも「雨漏りだね」と言うと、家族がぼくを見て「蜘蛛だろ」と言う。

ビル

私が屋上に遺書と靴を並べた瞬間、ビルは勃起してますます高くなった。

荷台

いつも日曜日に町内を回る廃品回収の軽トラの荷台には、いつも血まみれの女が載っているが、今日その女を見たら、腹が膨らんでいた。

車で轢いた猫をよく見たら剥製だった。

めんどくさい奴

めんどくさい奴を買ったからレシートが長ぇや。

蛍の日

お父さん、今日、蛍の日だから、見に来て、な。ケツにあんな痛い注射すんだから、来てくれないと、悲しいよ。ははは。

石焼き芋

「石~焼き~芋~」という声が、火葬場の周りをぐるぐる回っている。

石焼き芋

「石~焼き~芋~」という声が、夜中、隣の独房から、かすかに。

石焼き芋

「石~焼き~芋~」という声が、マンホールの下から聞こえてくる。

呪い

三十円の呪いをかけられた。飼い犬がへそを見せなくなった。

説明書

継母が「嗅ぎ方」のページを破り捨ててしまった鼻の説明書を手に、彼がくれた花の前で泣いている。

蝶を笑わせることができたホームレスが死んで、この公園の春はずいぶんさびしくなった。

新聞

新聞を読んでいた私のところに祖母が、ふっ、と来て、「この人、嫌いだった人」と、お悔やみ欄を指差した。

おっぱい

どうしてママはおっぱいが一個しかないの?と尋ねると母は、黙って、満月を指さした。

イボ

背中が熱くて医者に行くと、大きなイボが出来ているらしいが、診てくれた先生が言うには、そのイボには窓があり扉があり煙突が突き出しているのだという。

茶碗

空飛ぶ円盤から降りてきたおじさんが、ぼくを見るなり、「たいようをわけてくれませんか」と、茶碗を差し出す。

あれ食ったら虫歯になりそうだなぁ。雲を見上げて、叔父さんがつぶやいた。叔父さんは明日、ギロチンにかけられる。

すごろく

兄の遺書をすごろくにした。中学二年生のところでなぜかみんな一回休みになる。

隣の墓

墓参りに行ったら、隣の家の墓石に「逃げられませんよ」という貼り紙が貼られている。

隣の墓

墓参りに行ったら、隣の家の墓石の前に、チキンを食った跡らしい鳥の骨がいくつも落ちている。

隣の墓

墓参りに行ったら、隣の家の墓石が何だか不思議なので、じっと眺めているうちに、これはどうやら墓石にピエロのメイクを施そうとしたらしいと気づく。

人生

私が生まれた時に、はめこまれた人生ハ、市場デ買った中古品だっタ。だから私は、幼イ頃から、酒が好きだったのデス。

海蛇

「またこれだ……」と漁師たちは舌打ちをし、網の中で海蛇のようにのたうち回る注連縄を海へ放り投げる。

七夕

あの年の七夕の短冊に、「キスをしたい」と書いて去っていった、首のない女を、今夜、抱く。