2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧
それは「菜切り包丁」の間違いなどではなく、確かに「名切り包丁」で、私は今も、あの日狂った母に切り落とされた下の名の行方を、探し続けている。
ある朝目覚めると、女房と全く同じ顔の女が四人、俺を囲んで見下ろしていて、「えっ?」と驚く間もなく、「シンキングタイム、スタート!」、一斉に叫んだ。
夢市場は今日も店主たちの寝息で活気づいている。
朝のゴミ捨て場にぽつんと残された、「抵抗されたため回収できませんでした」と書かれた紙が貼られたゴミ袋が、肩で息をするようにうごめいている。
家に帰ると姉の字のメモで、「戸棚にあやつが入っています」と書かれてあり、おやつの間違いでは、と思いながら戸棚を開けるとそこには、憎き仇のあやつの首が。
明日は学校のみんなで「オハナミ」に行くので、明日の朝起きたら飲むようにと、「サクラ」色の薬のカプセルが配られました。
娘がいつまでも露天風呂から戻ってこないので、心配になって様子を見に行くと、露天風呂に娘の姿はなく、なみなみと湛えられた湯に満月が二つ映っている。
俺がもうちょっと生命線を長く彫り込んでやってりゃあ、お前も薪にならずに済んだかもしれねえな。
転校先の学校で配られた避難訓練のお知らせには、ただ一言「うらぎらない」という注意書きが添えられていた。
今夜は焼き鳥だから、時間になっても鳩時計から鳩が出てこない。
死ぬ時に教えてもらったパスワードで天国の扉が開かず、そこで初めて、自分は地獄に落ちたのだと知る。
火星人の交尾はフライパンにバターを溶かすところから始まる。
先代の主人が亡くなったので、先祖代々受け継いでいる秘伝のタレを、新しい骨壺に詰め替える。
雨上がりの空の下、四人家族のものと思われる大小八つの足跡が、水たまりの中から四方に向かって残されている。
十歳のお誕生日会の時、既に人魂になっていた兄がろうそくに火を点けて回ってくれたことが、兄との一番の思い出です。
ちなみに今回は登山のついでにカミさんの死体を埋めに行くので持ち物が多めです^^;
その出版社が発行する辞書は、その言語に関わらず必ず、「神」という項目が載ったページが落丁している。
「パパー。肩車してー。ねー。パパー」 「しーっ。後でな」 「何でー。今今今ー!」 「静かにしてなさい、お前の葬式なんだから」
私の母は、客席を埋め尽くす火星人たちに見つめられながら、舞台の上で、私を出産したそうだ。
今日はお父さんがぼくをやけにしつこく虫捕りに誘ってくるけど、ぼく、見ちゃったんだ、昨夜、お父さんが軒下の蜘蛛の前で正座してうなだれていたところ。
つつがなく儀式が終わり、夜空を見上げると、びっしりと蛭にたかられた満月が、見る見るうちにやせ細っていく。
手渡された処方箋に「針 千本」と書かれているのを見て思わずはっと顔を上げると、その老婦人は「約束を、破ってしまった、ものですから」と、少しはにかんでつぶやいた。
拝啓、我が家の目玉の木から視線を感じる季節になりました、貴宅の唇の木もそろそろざわめき始める頃でしょうか。
旅館に一泊した翌朝、体中に子どもの手形がついていることに驚いてフロントに駆け込んだ俺に、「こんなに気に入られた人初めてです」と、恐怖とも嫉妬ともとれるひきつった顔で女将が言う。
わけのわからぬ黒い線に体を絡み取られて徐々に絞められていく、という悪夢からはっと目覚めてふと枕元を見ると、黒いクレヨンを握りしめた息子が、私を見てニヤニヤ笑っている。
おじいちゃんの家の大黒柱には、誰かが背くらべをした跡が残っているのだが、問題はそれが3cmから始まっていることだ。
近所に住む砂糖菓子のお姉さんが、ブラックコーヒーが飲めない私のために折ってくれた小指が、渦の中にゆっくり溶けていく。
家に帰ってキッチンの電気を点けたら、全身にアルミホイルを巻いた人がオーブンの前でじっと佇んでいた。
ものもらいになってしまったので目医者に行ったら待合室に一つ目小僧がいた、よかった、たぶんいい目医者だ。
我が家に代々受け継がれてきた地球儀が微熱を帯びていることに気づき、慌ててニュース番組を点ける。