ある晴れた日の昼下がり、どこまでも続く一本道を、一台のオンボロ自動車が走っている。車には中年の男女が乗っている。運転席にいる男はまっすぐ前を見つめている。助手席に座っている女は手に持った花束の匂いをしきりに嗅いでいる。やがて前方に案内標識が見えてくる。案内標識には《鼻・20km》《右目・70km》《左目・100km》と表示されている。また離れたわね。女が呟く。あの子も年々大きくなっているのさ。男が答える。あの子が嗅ぐ前にこの花の匂いが消えないかしら。君は毎年その心配をしているよ。男は笑ってアクセルを強く踏む。やがて車は荒れ地に入っていく。しばらくして男は車を停め窓を開ける。鼻息がかすかに聞こえてくる。この辺だ。二人は車から降りる。女はまだ花の匂いを確かめている。